・・・と、おじいさんと、おばあさんは、ぶるぶると震えながら、話をしていました。 夜が明けると、沖は真っ暗で、ものすごい景色でありました。その夜、難船をした船は、数えきれないほどであります。 不思議なことには、その後、赤いろうそくが、山のお・・・ 小川未明 「赤いろうそくと人魚」
・・・ 私はもう初め首の落っこって来た時から、恐くて恐くてぶるぶる顫えていました。 大勢の見物もみんな顔色を失って、誰一人口を利く者がないのです。 爺さんは泣きながら、手や足や胴中を集めて、それを箱の中へ収いました。そして、最後に、子・・・ 小山内薫 「梨の実」
・・・けれど、気の弱い私は宿の者にその旨申し出ることもできず、辛抱して、なるべく温味の多そうな隅の方にちぢこまって、ぶるぶる顫えていると、若い男がはいって来た。はれぼったい瞼をした眼を細めて、こちらを見た。近視らしかった。 湯槽にタオルを浸け・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・ もともと臆病な丹造は、支店長の顔を見るなりぶるぶるふるえていたが、鼻血を見るが早いか、あっと叫んで、小柄の一徳、相手の股をくぐるようにして、跣足のまま逃げてしまい、二日居所をくらましていた……。 ここに到って「真相をあばく」も・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・ と声高に云う声が何処か其処らで…… ぶるぶるとしてハッと気が付くと、隊の伍長のヤーコウレフが黒眼勝の柔しい眼で山査子の間から熟と此方を覗いている光景。「鋤を持ち来い! まだ他に二人おる。こやつも敵ぞ!」という。「鋤は要らん・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・この時、悪寒が身うちに行きわたって、ぶるぶるッとふるえた、そして続けざまに苦しい咳をしてむせび入った。 ふと思いついたのは、今から二月前に日本橋のある所で土方をした時知り合いになった弁公という若者がこの近所に住んでいることであった。道悪・・・ 国木田独歩 「窮死」
・・・北海道の話を聴ても『冬になると……』とこういわれると、身体がこうぶるぶるッとなったものです。それで例の想像にもです、冬になると雪が全然家を埋めて了う、そして夜は窓硝子から赤い火影がチラチラと洩れる、折り折り風がゴーッと吹いて来て林の梢から雪・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ 三 戸外で蒙古馬が嘶いた。 馭者の呉はなだめるような声をかけて馬を止めた。 ぶるぶる身慄いして、馬は、背の馬具を揺すぶった。今さっき出かけたばかりの橇がひっかえしてきたらしい。 外から頼むように扉を叩く。ボ・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・ 家が焼ける火を見ると子供達はぶるぶる顫えた。「あれ……父うちゃんどうなるの……」「なんでもない、なんでもない、火事ごっこだよ。畜生!」彼は親爺と妹の身の上を案じた。 翌朝、村へ帰ると親爺は逃げおくれて、家畜小屋の前で死骸となっ・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・寒いのと、おそらくひもじいのと両方で、からだをぶるぶるふるわせ、下あごをがたがたさせながら、引きつれたような、ぐったりした顔をして、じろじろと、かぎにかかった肉を見つめています。 肉屋は、おどけた目つきをして、ちょいちょいそのやせ犬を見・・・ 鈴木三重吉 「やどなし犬」
出典:青空文庫