・・・でもって同君の名を知り伎倆を知り其執筆の苦心の話をも聞知ったのでありました。 当時所謂言文一致体の文章と云うものは専ら山田美妙君の努力によって支えられて居たような勢で有りましたが、其の文章の組織や色彩が余り異様であったために、そして又言・・・ 幸田露伴 「言語体の文章と浮雲」
・・・「あのあとで、お二人とも文治さんに何か言われはしなかったですか? 北さん、どうですか?」「それあ、兄さんの立場として、」北さんは思案深げに、「御親戚のかた達の手前もあるし、よく来たとは言えません。けれども、私が連れて行くんだったら、大丈・・・ 太宰治 「故郷」
・・・それから鈴木文治や、アナーキズムへの攻撃。――ことに三吉には話の内容よりも、弁士自体が面白かった。右の肩で、テーブルをおすようにして、ひどい近眼らしく、ふちなしの眼鏡で天井をあおのきながら、つっかかってくる。ところどころ感動して手をたたこう・・・ 徳永直 「白い道」
・・・ある時はわが大学に在りしことを聞知りてか、学士博士などいう人々三文の価なしということしたり顔に弁じぬ。さすがにことわりなきにもあらねど、これにてわれを傷けんとおもうは抑迷ならずや。おりおり詩歌など吟ずるを聞くに皆訛れり。おもうにヰルヘルム、・・・ 森鴎外 「みちの記」
・・・兄文治が九つ、自分が六つのとき、父は兄弟を残して江戸へ立ったのである。父が江戸から帰った後、兄弟の背丈が伸びてからは、二人とも毎朝書物を懐中して畑打ちに出た。そしてよその人が煙草休みをする間、二人は読書に耽った。 父がはじめて藩の教授に・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫