・・・また、野路へゆくと白い野ばらの花が咲いて、ぷんぷん香っていることなどが、しみじみと考え出されて、いっそうふるさとがなつかしかったのです。「どうしたの?」と、このとき、光子さんがきてやさしくたずねてくださいました。 きよは、泣いたりし・・・ 小川未明 「気にいらない鉛筆」
・・・ おばあさんは、いい香水のにおいが、少女のからだにしみているとみえて、こうして話しているあいだに、ぷんぷんと鼻にくるのを感じました。「そんなら、おまえは、私を知っているのですか。」と、おばあさんはたずねました。「私は、この家の前・・・ 小川未明 「月夜とめがね」
・・・ 声がきこえ、湯上りの匂いをぷんぷんさせて、帰ってきた。その顔を一つ撲ってから、軽部は、「女いうもんはな、結婚まえには神聖な体でおらんといかんのやぞ。キッスだけのことでも……」 言いかけて、お君を犯したことをふと想いだし、何か矛・・・ 織田作之助 「雨」
・・・垣根のきこくがぷんぷん快い匂いを放っていました。 銭湯のなかで私は時たま一緒になる老人とその孫らしい女の児とを見かけました。花月園へ連れて行ってやりたいような可愛い児です。その日私は湯槽の上にかかっているペンキの風景画を見ながら「温泉の・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・ 私のところへ夜遊びに来ると、きっと酒の香をぷんぷんさせて、いきなり尻をまくってあぐらをかきます。そして私が酒を呑まぬのを冷やかしたものでございます。 そしてまた、しきりと女房を持てとすすめました。そのついでにどうかいたしますと、『・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・其焼たての香しい香が戸外までぷんぷんする。其焼く手際が見ていて面白いほどの上手である。二人は一寸と立てみていた、「お美味そうねエ」とお富は笑って言った。「明朝のを今製造えるのでしょうねエ」とお秀も笑うて行こうとする、「ちょっと御・・・ 国木田独歩 「二少女」
・・・「いいにおいが、ぷんぷんしますぞ、へえ。これが、クリイム。これが、うす赤。これが、白。」ひとりで何かと、しゃべっている。嘘つきは、習性として一刻も、無言で居られないものである。「この辺は、みんな、あなたの畑なんでしょうか。」かえって私の・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・全文のかげにて、ぷんぷんお怒りの御様子。私、おのれ一個のプライドゆえに五円をお願いしたわけではなかったのです。わが身ひとつのための貪慾に非ず、名知らぬ寒しき人に投げ与えむため、または、かのよき人よろこばせむための金銭の必要。けれども、いまは・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・ 今月は、それこそ一般概論の、しかもただぷんぷん怒った八ツ当りみたいな文章になったけれども、これは、まず自分の心意気を示し、この次からの馬鹿学者、馬鹿文豪に、いちいち妙なことを申上げるその前奏曲と思っていただく。 私の小説の読者に言・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・なんの事やら、とっても、ぷんぷんして出かけましたよ。」「それあ、そうでしょう。ちょっと、ひどかったですものね。それで、あのひとは? どうしたのです。まだ、ここにいるようですね。」「女中さんがわりにいてもらう事にしました。どうして、な・・・ 太宰治 「リイズ」
出典:青空文庫