・・・の字を倒さにしたような形で、二つの並行した山脈地帯を低い平野が紐で細く結んでいるような状態なのである。大きいほうの山脈地帯は、れいの雲煙模糊の大陸なのである。さきの沈黙の島は、小さいほうの山脈地帯なのである。平野は、低いから全く望見できなか・・・ 太宰治 「佐渡」
・・・ 著者はこれにつづいて、天才を見付ける事の困難を論じ、また補助奨励と天才出現とは必ずしも並行しない事などを実例について論じている。そして一体天才の出現を無制限に望むのがいいか悪いかという根本問題に触れたところで、アインシュタインの独特な・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・琵琶湖の東北の縁にほぼ平行して、南北に連なり、近江と美濃との国境となっている分水嶺が、伊吹山の南で、突然中断されて、そこに両側の平野の間の関門を形成している。伊吹山はあたかもこの関所の番兵のようにそびえているわけである。大垣米原間の鉄道線路・・・ 寺田寅彦 「伊吹山の句について」
・・・歌麿以前の名家の絵をよくよく注意して見ると髷や鬢の輪郭の曲線がたいていの場合に眉毛と目の線に並行しあるいは対応している。櫛の輪郭もやはり同じ基調のヴェリエーションを示している。同じ線のリズムの余波は、あるいは衣服の襟に、あるいは器物の外郭線・・・ 寺田寅彦 「浮世絵の曲線」
・・・ 自然界の平衡状態は試験管内の科学的平衡のような簡単なものではない。ただ一種の小動物だけでも、その影響の及ぶところははかり知られぬ無辺の幅員をもっているであろう。その害の一端のみを見てただちにそのものの無用を論ずるのは、あまりにあさはか・・・ 寺田寅彦 「蛆の効用」
・・・ 映画で同時に別々の場所で起こっている事がらの並行的なモンタージュによって特殊の効果を収める。「餅作るならの広葉を打ち合わせ」という付け句を「親と碁をうつ昼のつれづれ」という前句に付けている。座敷の父とむすこに対して台所の母と嫁を出した・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・「対照」「譬喩」「平行」「同時」等いろいろのモンタージュ手法に類するものを拾い出すことも可能であろうと思われる。 映画における字幕サブタイトルに相当するものすら、ある絵巻物には書き込まれてあるのも興味あることである。 絵巻物の一画面・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・しかもそれはこれに併行する経済的の帳簿の示す数字によって制約されつつ進行するのである。細かく言えば高価なフィルムの代価やセットの値段はもちろん、ロケーションの汽車賃弁当代から荷車の代までも予算されなければならないのである。これを、詩人が一本・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ この映画の視覚的要素で著しく目立ったライトモチーフと思われるものは、並行直線と円による幾何学的形像の構成、それから直線運動と円運動との律動的な交錯である。 刑務所の仕事場と食堂の並行直線。これに対応して蓄音機工場における全く同様な・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・そうして始めていわゆる活弁なるものを聞いて非常に驚いて閉口してしまって以来それきりに活動映画と自分とはひとまず完全に縁が切れてしまった。今でも自分には活弁の存在理由がどうしても明らかでないのである。 自分が活動写真の存在を忘れているうち・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
出典:青空文庫