・・・此家の主人はかく云われて、全然意表外のことを聞かされ、へどもどするより外は無かった。「しかし、此処の器量よしめの。かほどの器量までにおのれを迫上げて居おるのも、おのれの私を成そうより始まったろう。エーッ、忌々しい。」 眼の中より青白・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・それが公衆の面前に引き出され、へどもどしながら書いているのである。書くのがつらくて、ヤケ酒に救いを求める。ヤケ酒というのは、自分の思っていることを主張できない、もどっかしさ、いまいましさで飲む酒の事である。いつでも、自分の思っていることをハ・・・ 太宰治 「桜桃」
・・・言ってしまって、へどもどした。「いずれにもせよ、僕の知ったことじゃない。勝手にするがいい、と、とみやにそう言って置いて呉れ。僕は、非常に不愉快だ。かえります。僕を、なんだと思ってんだ。いいえ、かえります。弟がそんなにいやなら、僕がひきとると・・・ 太宰治 「花燭」
・・・人から、お元気ですか、と問われても、へどもどとまごつくのである。何と答えたらいいのだろう。元気とは、どんな状態の事をさして言うのだろう。元気、あいまいな言葉だ。むずかしい質問だ。辞書をひいて見よう。元気とは、身体を支持するいきおい。精神の活・・・ 太宰治 「作家の手帖」
・・・老いた番頭のほうで、へどもどした。私の語調が強すぎたのかも知れない。「そこへ行くのさ。」私は番頭の持っている提燈を指さした。福田旅館と書かれてある。「はは。」老いた番頭は笑った。 自動車を呼んで貰って、私は番頭と一緒に乗り込んだ・・・ 太宰治 「佐渡」
・・・お婆さんに連れられてお寺参りをしたり、またお葬式や法要の度毎に坊さんのお経を聞き、また国宝の仏像を見て歩いたりしているが、さて、仏教とはどんな宗教かと外国の人に改って聞かれたら、百人の中の九十九人は、へどもどするに違いないのだ。なんにも知ら・・・ 太宰治 「世界的」
・・・高貴性とは、弱いものである。へどもどまごつき、赤面しがちのものである。所詮あの人は、成金に過ぎない。 おけらというものがある。その人を尊敬し、かばい、その人の悪口を言う者をののしり殴ることによって、自身の、世の中に於ける地位とかいうもの・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・右の頬を打たれたなら左の頬を、というのは、あれは勝ち得べき腕力を持っていても忍んで左の頬を差出せ、という意味のようでもあるが、お前の場合は、まるで、へどもどして、どうか右も左も思うぞんぶん、えへへ、それでお気がすみます事ならどうか、あ、いて・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・私は口が下手だから、そんないかめしい役所へ出て、きっと、へどもどまごついて、とんちんかんのことばかり口走り、意味なく叱責されるであろう。そうして、私には何となく、挙動不審の影があらわれて、あらぬ疑いさえ被り、とんでもない大難が、この身にふり・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・と命令するように言ったので、私は瞬時へどもどした。私の胸は貧弱で、肋骨が醜く浮いて見えているので、やはり病後のものと思われたにちがいない。老爺のその命令には、大いに面くらったが、けれども、知らぬふりをしているのも失礼のように思われたから、私・・・ 太宰治 「美少女」
出典:青空文庫