・・・松岡などに逢ったら、多少でも良心のあるひとなら誰でも、へどもどしますよ。それを当の松岡は(これは譬噺レニンに呆れられているという事にも気づかず、「なんだ、レニンってのは、噂ほどにも無い男だ、我輩の眼光におされてしどろもどろではないか、意気地・・・ 太宰治 「返事」
・・・末弟は顔を真赤にして、いよいよへどもどした。「知っていますよ。私が、うまく続けたかどうか心配だったんでしょう?」「実は、そうなんだよ。」末弟は小声であっさり白状した。「僕のは下手だったろうね。どうせ下手なんだからね。」ひとりで、・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ 午前中からおたのみしてあるのに御都合がつきませんでしょうかと、あんまりいかめしい調子で云い迫ったので向うの奥さんらしい声はへどもどしながら、少し工合が悪くて横になって居るが、もうじきあがる様に申して居りましたと返事するのをきいて、常套・・・ 宮本百合子 「黒馬車」
・・・ 私は自分でも気の付いたほど、喫驚し、へどもどした顔をして、用箪笥の一件を報告した。「そいじゃすぐ交番へお出って。それから、皆なそのまんまにして置かなくっちゃいけないよ、すぐ行くから。 その中に弟達が皆起き出して、面白半・・・ 宮本百合子 「盗難」
・・・ 誰も居まいと思って居た処に私が居たんで二人は少なからずへどもどして敷居とすれすれに台を置いて頭を持ちあげる拍子に隅の方へ入って居た方のが上の窓の木で頭をぶった。 私は失笑しそうになったのを辛うやっと知らん顔をする。 だまって顔・・・ 宮本百合子 「通り雨」
出典:青空文庫