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・・・現実の現象の底流れを掴み、作家として自分の目をとらえた事象の底をついて整理し、頭から尻尾まで見とおした上で細かく筆を運んでゆくと云うのではない。べったりと、大局的抑揚少く、日から夜へ夜から日へと進んでゆく。ゴーリキイは自分勝手に現実を拵えな・・・
宮本百合子
「長篇作家としてのマクシム・ゴーリキイ」
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・・・と入口に立ったが、べったり流し前の簀子に座布団もなしで坐り込んでいる彼女の風体とその辺に引散らかしてある物品を一目見ると、君が泣き出したのも無理なく思えた。石川は上り框に蹲み、「どうなさいました、え? 奥さん」と声を励ました。石・・・
宮本百合子
「牡丹」