・・・一段高いところにちょこなんと首だけ出して、古くさい法官帽に涎かけのような模様のついた服を着た裁判官がパラ・パラ着席しています。看守や巡査が多勢います。丹野せつ子やその他二人ばかりの婦人闘士の姿も見えます。 傍聴人が席についてしまうと、宮・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
・・・ 殆どあらゆる種類の伝説と童話とが酵母となって、彼女の生活のどこの隅々にまでも、渾然と漲りわたっていた果もない夢幻的空想は、今ようようその気まぐれな精力と、奇怪な光彩とを失い、小さい宝杖を持ち宝冠を戴いた王様や女王様、箒に乗って月に・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・この一文をよむわれらの脳裏に愛郷塾が髣髴し、社会ファシストの産業奉還論が想起されずにいるとすれば、むしろそれはおどろくべきである。 林は獄中での精力的な読書にもかかわらず、「京都の一族が封建地主的存在としてどのような窮迫した経済状態にあ・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
・・・純然たる幇間である。またある人はただ創作のためにのみ創作する。彼らの内には、生を高めようとする熱欲も、高まった生の沸騰も、力の横溢もなんにもなく、ただ創作しようとする欲望と熱心だけがある、内部の充溢を投与しようとするのでなく、ただ投与という・・・ 和辻哲郎 「創作の心理について」
出典:青空文庫