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・・・ それは天意への絶対尊信と、その奉行のための使命の自覚と、同時代への関心と、祖国の愛護と、共存大衆への本能的悲愍につき動かされて、やむにやまれなかったのである。 同時代への関心を持たぬ普遍妥当の真理の把持者は落ち着いていられる。民族・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・何故、吾々がシベリアへよこされて、三年兵になるまでお国のために奉公して、露西亜人と殺し合いをしなければならないか。その根本の理由はよく分っている。吾々が誰れかの手先に使われて、馬鹿を見ていることはよく分っている。露西亜人に恨がある訳ではない・・・ 黒島伝治 「戦争について」
・・・「中隊を止めて、方向転換をやらせましょうか。」 しかし、その瞬間、パッと煙が上った。そして程近いところから発射の音がひびいた。「お――い、お――い」 患者が看護人を呼ぶように、力のない、救を求めるような、如何にも上官から呼び・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・ そこで互に親み合ってはいても互に意の方向の異っている二人の間に、たちまち一条の問答が始まった。「どこへでも出て辛棒をするって、それじゃあやっぱり甲府へ出ようって云うんじゃあないか。」とお浪は云い切って、しばし黙って源三の顔を見・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・おまえの母さんはおいらが甲府へ逃げてしまって奉公しようというのを止めてくれたけれども、真実に余所へ出て奉公した方がいくらいいか知れやしない。ああ家に居たくない、居たくない。」と云いながら、雲は無いがなんとなく不透明な白みを持っている柔和・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・実際に是の如き公私の中間者の発生は、栄え行こうとする大きな活気ある町には必要から生じたものであって、しかも猫の眼の様にかわる領主の奉行、――人民をただ納税義務者とのみ見做して居る位に過ぎぬ戦乱の世の奉行なんどよりは、此の公私中間者の方が、何・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・首筋を明るいところまでくると、ちょっと迷ったとでもいうふうに方向をかえて、襦袢の襟に移った。それから襟の一番頂上まで来ると、また立ち止まった。その時女が箸を机の上におくと今虱が這いでてきたところが、かゆいらしく、顎を胸にひいて、後首をのばし・・・ 小林多喜二 「雪の夜」
・・・ と早々石川様から御家来をもちまして、書面に認め、此の段町奉行所へ訴えました。正直の首に神宿るとの譬で、七兵衞は図らず泥の中から一枚の黄金を獲ましたというお目出度いお話でございます。・・・ 著:三遊亭円朝 校訂:鈴木行三 「梅若七兵衞」
・・・私たちが坂の下の石段を降りるのを足音できき知るほど、もはや三年近くもお徳は私の家に奉公していた。主婦というもののない私の家では、子供らの着物の世話まで下女に任せてある。このお徳は台所のほうから肥った笑顔を見せて、半分子供らの友だちのような、・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・三人が三人、思い思いの方向を執って、同じ時代を歩もうとしていた。末子は、と見ると、これもすでに学校の第三学年を終わりかけて、日ごろ好きな裁縫や手芸なぞに残る一学年の生い先を競おうとしていた。この四人の兄妹に、どう金を分けたものかということに・・・ 島崎藤村 「分配」
出典:青空文庫