・・・してこの村から川上の方を望めば、いずれ川上の方の事だから高いには相違ないが、恐ろしい高い山々が、余り高くって天に閊えそうだからわざと首を縮めているというような恰好をして、がん張っている状態は、あっちの邦土は誰にも見せないと、意地悪く通せん坊・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・しかれども日本政府の眼より見れば五十年は決して長からず、南海岸は邦土の一部分なり。この予報がなし得らるれば、これによりて国家が享くべき直接間接の利益は少なからざるべし。 噴火の場合もこれに同じ。仮りに科学的に信憑すべき根拠よりして、来る・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・学的・地形学的・生物学的その他あらゆる方面から見ても時間的ならびに空間的にきわめて多様多彩な分化のあらゆる段階を具備し、そうした多彩の要素のスペクトラが、およそ考え得らるべき多種多様な結合をなしてわが邦土を色どっており、しかもその色彩は時々・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・この論文の始めの序説中、日本人の独創能力に乏しい事を述べた一節に、チャンバレーン博士の言ったという言葉を引いて、「この邦土で純粋に日本固有というべきものはただ二つ、それは風呂桶とそうしてポエトリーである」と述べている。また「もっと意地の悪い・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・明治初年の日本は実にこの初々しい解脱の時代で、着ぶくれていた着物を一枚剥ねぬぎ、二枚剥ねぬぎ、しだいに裸になって行く明治初年の日本の意気は実に凄まじいもので、五ヶ条の誓文が天から下る、藩主が封土を投げ出す、武士が両刀を投出す、えたが平民にな・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
出典:青空文庫