・・・ちょうど若葉の見頃な楓もあったが、樹ぶりが皆、すんなり、どちらかというと細めで素直だ。石南花など、七八年前札幌植物園の巖の間で見た時は、ずんぐりで横にがっしりした、まあ謂わば私みたいな形だったのに、ここで見ると同じ種類でもすらりとし、背にの・・・ 宮本百合子 「九州の東海岸」
・・・が終っているあとにつづく闘病者の現実、療養所内の自治会活動についてあらわれている現実の細目とでもいうべき題材である。誠実な心情がうけとれる。作者は、しかし、人道的であり集団的活動の熱意をもって働いている主人公のありかたについて、もう一つ深め・・・ 宮本百合子 「『健康会議』創作選評」
・・・自分がそれに目をつけたのを認め、主任は、煙草のけむをよけて眼を細めながら、書類の間をさがし、「――見ましたか」と一枚のビラをよこした。共青指導部の署名で出された、赤色メーデーを敢行せよ! というビラである。「そういうものが、こっ・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・両眼を細め、片腕を肱ごと前列の椅子の背へもたせかけ舞台を見つめて話をきいている皺深い横顔の輝きを見てくれ。СССРが凡そ百三十万のクラブ員の上に投げているこれは光の一片である。 革命第十三年にあるСССРで、組合員千二十八万人をもつ職業・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・すべての婦人がほんとうに自分たちのために、ほんとうに自分たちの未来の幸福のために、生活の細目にわたって充分理解し社会との関係を掴み、そこで発展的に問題を解決してゆく鍵を見出す本気の心持がわいてきていると思います。 自覚というようなことは・・・ 宮本百合子 「自覚について」
・・・詮策ぽく細められてもいないし、厳しく見据えられてもいない。それは本当に心の窓という風で、私はそこから偶然自分に向って注がれる視線にあうと、さあっと暖い血汐が体の中を流れるように感じた。そして、自分のもっているいい心を自分で信じて生きて行って・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・しての価値は、私という主人公が勤労生活のうちにあるさまざまの半封建的な、搾取的な細部を感じつつ生きてゆくそのことを、いわゆる、進歩的勤労者の自覚した認識というような観念にてらして描きださず、生きてゆく細目そのもので描きだしているという点です・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ 外にたったまんま篤は云って扉を細目にあけた。 京子の方を見てポックリ頭を下げて千世子の方に目を向けてたしかめる様にも一度、「ねいいでしょう。と云った。 千世子はだまってがっくんをした。 京子は間のわるそ・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・になって、落日に向って額に手をかざし「眠りこむように目を細め」る主人公が描かれている。 嘉村氏は、転落する地方地主の生活に突入っていわばその骨を刻むように書いているつもりなのであるが、結局その努力も主題を発展的な歴史の光によって把握して・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価によせて」
・・・日暮方、明障子を細めに小さい手がのぞいてパタリとかるくたおれたもの音にそれと察した。女達は美くしい錦木の主とつれない紫の君の上を思って自分がその人だったらなどと思う女もないではなかった。送られた女君はそれを一目細い目を開いて見ただけで童のお・・・ 宮本百合子 「錦木」
出典:青空文庫