・・・そうするとどんな女もほっそりと小さくなってなかみから現れた。「ナターシャがはじめての舞踏会へ行ってむかれて現れる」面白さを思い出す。 丸っこい体の伸子さえ小さい女になって外套のなかからあらわれた。そして、ザールをぐるぐる歩きまわる。・・・ 宮本百合子 「無題(十三)」
・・・ 次第にお城の柱に朝日が差して来る頃になると、鏡の前に立ったまま、王女の着物は、ほっそりした若木の林が、朝の太陽に射とおされる模様に変りました。海底の有様は柔かい霧の下に沈み、輝く薔薇色の光線の裡に、葉をそよがせる若い樹が、鮮やかな黒線・・・ 宮本百合子 「ようか月の晩」
・・・暗い建物のさけ目から一層黒い夜が鋭い刃のように見える横丁の前をトーマス・クックの東端遊覧自動車は体をほっそり引押すようにしてすべり過ぎた。 市営労働者住宅は七階だ。が空間利用法によって七階までの鉄ばしごは道路に面した空中へまる出しだ。レ・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・推古仏の特徴は肢体がほっそりした印象を与えること、顔も細面であること、それらを取り扱う場合に意味ある形を作り出すことが主要なねらいであって、感覚的な興味は二の次であることなどであるが、そういう特徴を持つものが雲岡の石仏の中に全然ないとは言い・・・ 和辻哲郎 「麦積山塑像の示唆するもの」
出典:青空文庫