・・・「ゴゴンゴーゴー、 やまのいわやで、 熊が火をたき、 あまりけむくて、 ほらを逃げ出す。ゴゴンゴー、 田螺はのろのろ。 うう、田螺はのろのろ。 田螺のしゃっぽは、 羅紗の上等、ゴゴンゴーゴー」・・・ 宮沢賢治 「シグナルとシグナレス」
・・・ どうも斯う人の居ない海岸などへ来て、つくづく夕方歩いていると東京のまちのまん中で鼻の赤い連中などを相手にして、いい加減の法螺を吹いたことが全く情けなくなっちまう。どうだ、この頁岩の陰気なこと。全くいやになっちまうな。おまけに海も暗くな・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・「強情張るにも程がある。ほら、ほら! そんなにあるのに無いって私をだますのか、ほら、ほら! ああ、蓮だらけだよう!」と、彼女はおいおい泣いて亭主にかじりついた。――これが気違いになり始めだと云う噂であった。村へ帰って来ても発狂は治ら・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
・・・その思想的空白、ファシズムの暗いほらあなにうちこまれていた理性のゆがみと弱視のために、この四年間日本の民主主義は独特な障害に面してきています。猪木氏の出現は、今日の若い読者層が過去の社会科学の文献に通じていず、したがって同氏が論拠とされてい・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・「ほら、羽根から視線を脱した瞬間、廻っていることが分るでしょう。僕もいま飛び出したばかりですよ。ほら。」 横光利一 「微笑」
・・・このそねみと卑しめとは、他に対する批判と厳密に区別されなくてはならない。法螺ふきをそしるとか、自慢話を言いけすとかというのは、正当な批判であって、そねみや卑しめではない。そねむのは優れた価値を引きおろすことであり、卑しめるのは人格に侮蔑を加・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫