・・・ と出額をがッくり、爪尖に蠣殻を突ッかけて、赤蜻蛉の散ったあとへ、ぼたぼたと溢れて映る、烏の影へ足礫。「何をまたカオカオだ、おらも玩弄物を、買お、買おだ。」 黙って見ている女房は、急にまたしめやかに、「だからさ、三ちゃん、玩・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・ 最も得意なのは、も一つ茸で、名も知らぬ、可恐しい、故郷の峰谷の、蓬々しい名の無い菌も、皮づつみの餡ころ餅ぼたぼたと覆すがごとく、袂に襟に溢れさして、山野の珍味に厭かせたまえる殿様が、これにばかりは、露のようなよだれを垂し、「牛肉の・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・ 血はまだ溢れる、音なき雪のように、ぼたぼたと鳴って留まぬ。 カーンと仏壇のりんが響いた。「旦那様、旦那様。」「あ。」 と顔を上げると、誰も居ない。炬燵の上に水仙が落ちて、花活の水が点滴る。 俊吉は、駈下りた。 ・・・ 泉鏡花 「第二菎蒻本」
出典:青空文庫