・・・ 夜光虫が美しく光る海を前にして、K君はその不思議な謂われをぼちぼち話してくれました。 影ほど不思議なものはないとK君は言いました。君もやってみれば、必ず経験するだろう。影をじーっと視凝めておると、そのなかにだんだん生物の相があらわ・・・ 梶井基次郎 「Kの昇天」
・・・「まあぼちぼちだ」「落ちついているね」「例のところでまだ引っ掛かってるんだ。今度の学会で先生が報告するはずだったんだが、今のままじゃまだ貧弱でね」 四方山の話が出た。行一は今朝の夢の話をした。「その章魚の木だとか、××が・・・ 梶井基次郎 「雪後」
・・・「僕は最近また、ぼちぼち読み直してみているんですけれども。」「へへ、」佐伯は、机の傍にごろりと仰向きに寝ころび、へんな笑いかたをした。「君は、どうしてそんな、ぼちぼち読み直しているなんて嘘ばかり言うんだね? いつでも、必ずそう言うじゃな・・・ 太宰治 「乞食学生」
出典:青空文庫