・・・ その内ぼやぼやと火が燃えた。船から、沖へ、ものの十四五町と真黒な中へ、ぶくぶくと大きな泡が立つように、ぼッと光らあ。 やあ、火が点れたいッて、おらあ、吃驚して喚くとな、……姉さん。」「おお、」と女房は変った声音。「黙って、・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・ 二人がも一度、樺の木の生えた丘をまわったとき、いきなり眼の前に白いほこりのぼやぼや立った大きな道が、横になっているのを見た。その右の方から、さっきの音がはっきり聞え、左の方からもう一団り、白いほこりがこっちの方へやって来る。ほこりの中・・・ 宮沢賢治 「黄いろのトマト」
雪婆んごは、遠くへ出かけて居りました。 猫のような耳をもち、ぼやぼやした灰いろの髪をした雪婆んごは、西の山脈の、ちぢれたぎらぎらの雲を越えて、遠くへでかけていたのです。 ひとりの子供が、赤い毛布にくるまって、しきり・・・ 宮沢賢治 「水仙月の四日」
出典:青空文庫