・・・一里八銭の俥よりも、三里の灸銭の方がぼろい……と言えば、済むところを、社会奉仕とは、どこを押せば、そんな音が出るのだと、おれはおかしかったが、そういうおれもおれで、話をきくなり、「――よし、来た」 と、ひどく弾んで、承諾してしまった・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・昼は屑屋、夜は易者で、どちらももとの掛からぬぼろい商売だと言ってみたところで、いずれは一銭二銭の細かい勘定の商売だ。おまけに瞳は病気だというではないか。いまさき投げ出して行った金も、大晦日の身を切るような金ではなかったかと、坂田の黒い後姿が・・・ 織田作之助 「雪の夜」
・・・それを眺めながら、画中のドックに入っている船と後方の丘との距離が明瞭でないとか、遠くの海上の島がもう一寸物足りないとか素人評をやっていると、女ながらもそういう画材を勉強している友達が、考えると船なんてぼろいなあ、と百円の絵一つをさばきかねる・・・ 宮本百合子 「くちなし」
出典:青空文庫