・・・ そこに大きなテーブルが置いてあって、水晶で造ったかと思われるようなびんには、燃えるような真っ赤なチューリップの花や、香りの高い、白いばらの花などがいけてありました。テーブルに向かって、ひげの白いじいさんが安楽いすに腰かけています。かた・・・ 小川未明 「青い時計台」
・・・その一本の枝のさきに、小さい真っ赤なものが、ついていたのです。そして、それはなんであるか、お母さんにもわかりませんでした。 義雄さんは、庭に下りて、すぐにざくろの木に登りはじめました。「おちるといけませんよ。」と、お母さんは、注意を・・・ 小川未明 「赤い実」
・・・女は箱の中から、真っ赤なろうそくを取り上げました。そして、じっとそれに見入っていましたが、やがて金を払って、その赤いろうそくを持って帰ってゆきました。 おばあさんは、燈火のところで、よくその金をしらべてみると、それはお金ではなくて、貝が・・・ 小川未明 「赤いろうそくと人魚」
・・・大きな台の上で、男が、三人も並んで、ぴかぴか光る庖丁で鶏の肉を裂き、骨をたたき折っていました。真っ赤な血が、台の上に流れていました。その台の下には、かごの中で他の鶏が餌を食べて遊んでいました。 鳥屋の前に、二人の学生が立って、ちょっとそ・・・ 小川未明 「あらしの前の木と鳥の会話」
・・・ このとき、吉雄は、顔を真っ赤にして、どんなにか恥ずかしい思いをしなければなりませんでした。 しかし、受け持ちの先生のいったことは、かならずしも正しくなかったことは、ずっと後になってから、吉雄が有名なすぐれた学者になったのでわかりま・・・ 小川未明 「ある日の先生と子供」
・・・日暮れ方になると、真っ赤に海のかなたが夕焼けして、その日もついに暮るるのでした。 いつ、どこからともなく、一人のおじいさんが、この城跡のある村にはいってきました。手に一つのバイオリンを持ち、脊中に箱を負っていました。 おじいさんは、・・・ 小川未明 「海のかなた」
・・・そして、腹を割ると、真っ赤な、桃のつぼみが出たと思いました。「どこで、桃のつぼみを、のんだのだろう。」といって、娘は、つまみ上げてから、「まあ!」と、目をみはったまま、ふるえ出したのでした。それは、永久になくしてしまったと思っていた、お・・・ 小川未明 「海のまぼろし」
・・・ 見ると、それは、びっくりするほどの、大きい、真っ赤な海がにでありました。「夜だから、いま食べないで、明日食べましょう。」と、お母さんはいわれました。「なんという、大きなかにだ。」といって、お父さんもびっくりしていられました。・・・ 小川未明 「大きなかに」
・・・ さっきから、やはりだまって、おいしそうな大きなパイをながめていた、勇ちゃんは、これをきくと真っ赤な顔をして、二郎さんにとびつきました。「そんなこと、あるもんか、僕、みんなたべるんだい。」と、けんかがはじまったのでした。「ああ、・・・ 小川未明 「お母さんはえらいな」
・・・そして夏のころ白い花が咲き、その年の暮れには真っ赤な実が重そうに垂れさがったのであります。 軒端にくるすずめまでが、目を円くして、ほめそやしたほどですから、近所の人たちも、「あんな枯れかかった木が、こんなによくなるとは、生きものは、・・・ 小川未明 「おじいさんが捨てたら」
出典:青空文庫