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・・・言一言に笑い興じて、いちどは博士も、席を蹴って憤然と立ちあがりましたが、そのとき、卓上から床にころげ落ちて在った一箇の蜜柑をぐしゃと踏みつぶして、おどろきの余り、ひッという貧乏くさい悲鳴を挙げたので、満座抱腹絶倒して、博士のせっかくの正義の・・・
太宰治
「愛と美について」
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・・・それが出来ない方で寧ろ有名な桃龍は笑い出して、満座の中でぬうと師匠の顔の先へ指さしつつ、「うーそぅ」と云った。「ほんまにあのときのお師匠はんの顔! 笑えて笑えてかななんだわ。――『うーそぅ』ちゅうなこと、よう云わはったわ」 ・・・
宮本百合子
「高台寺」