・・・大阪ではひどい雨に会って、天王寺の会場へゆく道々傘をもたない私共は濡れて歩いたのであったが、稲子さんは、宿をかしてくれた友達のマントを頭からかぶって、足袋にはねをあげまいと努力しながら、いそいで歩いた。私は洋服を着て、その不自由そうな様子を・・・ 宮本百合子 「窪川稲子のこと」
・・・ 颯っと短いマントに短剣を吊って、素早く胡瓜売りの手車の出ている角を曲ったのは、舞踊で世界的名声のあるカザークの若者だ。 ホテルの食堂で、英語、ドイツ語がロシア語と混って響くばかりでない。喉音の多い東洋語が活々とあっちこっちで交わさ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・ 退院者の後を追って、彼女たちは陽に輝いた坂道を白いマントのように馳けて来た。彼女たちは薔薇の花壇の中を旋回すると、門の広場で一輪の花のような輪を造った。「さようなら。」「さようなら。」「さようなら。」 芝生の上では、日・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫