・・・人類の食料と云えば蓋し動物植物鉱物の三種を出でない。そのうち鉱物では水と食塩とだけである。残りは植物と動物とが約半々を占める。ところが茲にごく偏狭な陰気な考の人間の一群があって、動物は可哀そうだからたべてはならんといい、世界中にこれを強いよ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・第三の精霊は頭をかるくふって遠くに流れて居る小川を見つめるといきなり張りのある響く声で、第三の精霊 美くしい精女殿、お二人の御年寄――さらばじゃ、この上ないよろこびのみちたところへ行く――青い水草は私の体をフンワリと抱えて冬の来ぬ国・・・ 宮本百合子 「葦笛(一幕)」
・・・ これからのいよいよ錯雑紛糾する歴史の波の間に生き、そこで成長してゆくために、女は、従来いい意味での女らしさ、悪い意味での女らしさと二様にだけいわれて来ていたものから、更に質を発展させた第三種めの、女としての人間らしさというものを生み出・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・現実にはこの三種三様の心理が極めてごたごたとまざり合って、今日の日本らしく複雑にあらわれて来ているのだと思われる。 二月以来のモラトリアムは、経済生活を建て直す実効はなかった。特に、生活資金の二百円削減は、日常生活に甚大に響き、物価高、・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・二間ばかりもあるかと思われるひろさで流れている水は澄んでいて流れの底に、流れにそってなびいている青い水草が生えているのや、白い瀬戸ものの破片が沈んでいるのや、瀬戸ひき鍋の底のぬけたのが半分泥に埋まっているのなどが岸のところから見えていた。大・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・ 池の水草の白い花が夕もやの下りた池のうす紫の中にほっかり夢の様に見える様子や、泳ぎながらその花で体中を巻く時の美くしさや快さなんかも思った。 何がなしに仙二には夏の来るのがいつもより倍も倍も待遠かった。 毎日毎日若い仙二は夏の・・・ 宮本百合子 「グースベリーの熟れる頃」
・・・岩や石の間には、夢のような苔や蘭の花が咲き満ちて、糸のように流れて行く水からは、すがすがしい香りが漂い、ゆらゆらと揺れる水草の根元を、針のように光る小魚が、嬉しそうに踊って行きます。 海にある通りの珊瑚が、碧い水底に立派な宮殿を作り、そ・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・日光が金粉をまいたように水面に踊って、なだらかな浪が、彼方の岸から此方の岸へと、サヤサヤ、サヤとよせて来るごとに、浅瀬の水草が、しずかにそよいで居る。 その池に落ち込む小川も、又一年中、一番好い勢でながれて居る。はるかな西のかん木のしげ・・・ 宮本百合子 「「禰宜様宮田」創作メモ」
・・・ けれ共、その中央の深さは、その土地のものでさえ、馬鹿にはされないほどで、長い年月の間に茂り合った水草は小舟の櫂にすがりついて、行こうとする船足を引き止める。 粘土の浅黒い泥の上に水色の襞が静かにひたひたと打ちかかる。葦に混じって咲・・・ 宮本百合子 「農村」
いつでも黒い被衣を着て切下げて居た祖母と京都に行って居たのは丁度六月末池の水草に白い豆の様な花のポツリポツリと見え始める頃から紫陽花のあせる頃までで私にはかなり長い旅であった。祖母の弟の家にやっかいになって居てすっかり京都・・・ 宮本百合子 「ひな勇はん」
出典:青空文庫