・・・ お徳は老母からも細君からも、みっしり叱られた。お清は日の暮になってもお源の姿が見えないので心配して御気慊取りと風邪見舞とを兼ねてお源を訪ねた。内が余り寂然しておるので「お源さん、お源さん」と呼んでみた。返事がないので可恐々々ながら・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・ 煙草の一番うまいのはやはり仕事に手をとられてみっしり働いて草臥れたあとの一服であろう。また仕事の合間の暇を盗んでの一服もそうである。学生時代に夜更けて天文の観測をやらされた時など、暦表を繰って手頃な星を選み出し、望遠鏡の度盛を合わせて・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・とでもいったようなものを、高等学校在学中に田丸先生からみっしり教わったというような気がする。この時に教わったものが、今日に至るまで実に頭にしみ込み実によく役に立ち、そうしていつでも自分の中で生きてはたらいているのを感ずる。高等学校の物理は実・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・ 三つのものを一つに減らしてもその中の一番根本的な一つをみっしりよく理解し呑込んでしまえば、残りの二つはひとりでに分かるというのが基礎的科学の本来の面目である。そうでなくても一つのものをよく玩味してその旨さが分かれば他のものへの食慾はお・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・医者さんもあんまり、がおれなぃで、折角みっしりやったらいがべ。」農民六「ようし、仕方なぃがべ。さあ、さっぱりどあぎらめべ。じゃ、医者さん、まだ頼む人もあるだ、あんまり、がおらなぃでおでぁれ。」農民二「さあ、行ぐべ。どうもおありがどご・・・ 宮沢賢治 「植物医師」
・・・――短いものでしたが褒めて下さいました、そして、一二年みっしり努力すれば作家としてちゃんと立って行けると云って下さいました」「それなら、どうして――例えばこの間のような時、×社で仕事を見つけて下さるようには出来ないの?」「人があまっ・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
・・・母はきっと、二人を並べて、もう一度、みっしり自分の考を明にされたいのだろう。物事を、或時、ぼんやりさせて置けない彼女の性格としては無理もない。然し、私は、如何うしたらよいのだろう。幾度、母の愁訴、憤怒にあっても、心の態度は、もう定って居る。・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・然しそれを見越しても、その時にはその時必然の階梯を、みっしり踏んで置くことは大切と思うのです。 私は、これ等の貧しい内省の裡から決して、一般的な訓戒や警告を抽き出そうとは思いません。多くの若い婦人は、決して、私ほど甘えて人生を見てはいら・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
出典:青空文庫