・・・ ところが先生は早くもそれを見附けたのでした。「ジョバンニさん。あなたはわかっているのでしょう。」 ジョバンニは勢よく立ちあがりましたが、立って見るともうはっきりとそれを答えることができないのでした。ザネリが前の席からふりかえっ・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・誰かに見附かったら大へんだ。もう進軍をやめなくちゃいかん。」 じいさんは片手を高くあげて、でんしんばしらの列の方を向いて叫びました。「全軍、かたまれい、おいっ。」 でんしんばしらはみんな、ぴったりとまって、すっかりふだんのとおり・・・ 宮沢賢治 「月夜のでんしんばしら」
・・・それからちゃんと見附かって、帰ろうとしてもなかなか足があがらない。つまり僕と宝石には、一種の不思議な引力が働いている、深く埋まった紅宝玉どもの、日光の中へ出たいというその熱心が、多分は僕の足の神経に感ずるのだろうね。その時も実際困ったよ。山・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・一念天に届いたか、ある大林のその中に、名さえも知らぬ木なれども、色もにおいもいと高き、十の木の実をお見附けなされたじゃ。さればもはや疾翔大力は、われを忘れて、十たびその実をおのがあるじの棟に運び、親子の上より落されたじゃ。その十たび目は、あ・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・ ところが私は、浜茄をとうとう見附けませんでした。尤も私が見附けなかったからと云って、浜茄があすこにないというわけには行きません。もし反対に一本でも私に見当ったら、それはあるということの証拠にはなりましょう。ですからやっぱりわからないの・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・電車道のところを見るとさほどでもないが濠の側を見ると、濃くもやが立ちこめて四谷見附に入る堤が ぼんやりかすんで見える。電燈はそれにとけ込んでいる。○電柱に愛刀週間の立看板◎右手の武者窓づくりのところで珍しく門扉をひらき 赤白・・・ 宮本百合子 「情景(秋)」
・・・唯、この際、自分にあてはまったものが、そう簡単に易々と見附かるかどうかと云うことは云える。そのために衣裳好みということが起るのであるならばさし支えないが、徒らに高価なものを身に附けたりして通がったりするのは、却ってその人を落すだけである。・・・ 宮本百合子 「二つの型」
・・・己と宇平とは只それを捜しに行くのだ。見附かってからお前に知らせれば好いじゃないか」「仰ゃる通、どこでお逢になるか知れませんのに、きっと江戸へお知らせになることが出来ましょうか。それに江戸から参るのを、きっとお待になることが出来ましょうか・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・どの舟もどの舟も、載せられるだけ大勢の人を載せて来たので、お酌の小さい雪蹈なぞは見附かっても、客の多数の穿いて来た、世間並の駒下駄は、鑑定が容易に附かない。真面目な人が跣足で下りて、あれかこれかと捜しているうちに、無頓着な人は好い加減なのを・・・ 森鴎外 「百物語」
・・・ お佐代さんが国から出た年、仲平は小川町に移り、翌年また牛込見附外の家を買った。値段はわずか十両である。八畳の間に床の間と廻り縁とがついていて、ほかに四畳半が一間、二畳が一間、それから板の間が少々ある。仲平は八畳の間に机を据えて、周・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫