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・・・――相棒の肩も広い、年紀も少し少いのは、早や支度をして、駕籠の荷棒を、えッしと担ぎ、片手に――はじめて視た――絵で知ったほぼ想像のつく大きな蓑虫を提げて出て来たのである。「ああ、御苦労様――松明ですか。」「えい、松明でゃ。」「途中、山路で日・・・
泉鏡花
「栃の実」
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・・・もちろん貝がらだけでなく生きた貝で、箱の中へ草といっしょに入れてやるとその草の葉末を蓑虫かなんぞのようにのろのろはい歩いた。海でなくて奥山にこんな貝がいるというのがいかにも不思議に思われたが、その貝の棲息状態などについてはだれも話してくれる・・・
寺田寅彦
「物売りの声」