・・・大きな梨ならば六つか七つ、樽柿ならば七つか八つ、蜜柑ならば十五か二十位食うのが常習であった。田舎へ行脚に出掛けた時なども、普通の旅籠の外に酒一本も飲まぬから金はいらぬはずであるが、時々路傍の茶店に休んで、梨や柿をくうのが僻であるから、存外に・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・見ると、五つ六つより下の子供が九人、わいわい云いながら走ってついて来るのでした。 そこで四人の男たちは、てんでにすきな方へ向いて、声を揃えて叫びました。「ここへ畑起してもいいかあ。」「いいぞお。」森が一斉にこたえました。 み・・・ 宮沢賢治 「狼森と笊森、盗森」
・・・となりの車室の子供づれの細君が二つ買ってソーニャという六つばかりの姉娘の腕に一つ、新しい世界というインターナショナル抜スイのような名をもった賢くない三つの男の子の腕に一つ通してやっている。 耳が痛い位寒い。食堂でよく会う黒人党員がいつも・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・「わたくしは陸奥掾正氏というものの子でございます。父は十二年前に筑紫の安楽寺へ往ったきり、帰らぬそうでございます。母はその年に生まれたわたくしと、三つになる姉とを連れて、岩代の信夫郡に住むことになりました。そのうちわたくしが大ぶ大きくなった・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・さて棺のまわりに糠粃を盛りたる俵六つ或は八つを竪に立掛け、火を焚付く。俵の数は屍の大小により殊なるなり。初薪のみにて焚きしときは、むら焼けになることありて、火箸などにてかきまぜたりしが、糠粃を用いそめてより、屍の燃ゆるにつれて、こぼれこみて・・・ 森鴎外 「みちの記」
・・・仲平は六十六で陸奥塙六万三千九百石の代官にせられたが、病気を申し立てて赴任せずに、小普請入りをした。 住いは六十五のとき下谷徒士町に移り、六十七のとき一時藩の上邸に入っていて、麹町一丁目半蔵門外の壕端の家を買って移った。策士雲井龍雄と月・・・ 森鴎外 「安井夫人」
・・・初めて私がランプを見たのは、六つの時、雪の降る夜、紫色の縮緬のお高祖頭巾を冠った母につれられて、東京から伊賀の山中の柘植という田舎町へ帰ったときであった。そこは伯母の家で、竹筒を立てた先端に、ニッケル製の油壺を置いたランプが数台部屋の隅に並・・・ 横光利一 「洋灯」
出典:青空文庫