・・・そう云えば、私のこれを書いているテーブルの上には、馬の首のついた中学生じみた文鎮のわきに明視スタンドが立っているのです。そのことをまだ書きませんでしたね。そっちで『科学知識』をよんだらスタンドの科学的光度のことが書いてあって、明るく視るスタ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・一握りの支配する位置にある人々が、或はそれらの人々を代表としている一群の男女が、頽廃した文化をつくり出していたのが事実だとして、フランスのあの勤勉で堅実な農民たちの朝夕が、果してその名士達と同様に頽廃していたなどと云い得るだろうか。朝六時に・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・知識階級という、あり得ぬ抽象中間階級を設定してヒューマニズム論をめぐる人々は、民衆を口にして、やはり、民衆を一箇の抽象名詞としてしまった。更に注目をひかれることは、この文学の大衆化動議においてそれ等の論者は民衆を抽象化しつつ、而も一方では現・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 日本の文脈ということについて極端にさかのぼってだけ考える人々の間には、漢語で今日通用されている種々の名詞や動詞を、やまとことばというものに翻訳し、所謂原体にかえした云いかたで使わせようという動きもある。果して、現実の可能の多い方法であ・・・ 宮本百合子 「今日の文章」
・・・去年第一回のMRAの大会には、アメリカの名士が大勢出席したが、本年のコーの大会にはアメリカの上院、下院あわせて六名の議員しか出席しなかった。ブックマン博士がナチスのヒムラーやヘスと特別な関係があったことがイギリス議会で発見されている。ウォー・・・ 宮本百合子 「再武装するのはなにか」
・・・ 純文学の作品をのせる雑誌は多く綜合雑誌で、政治、社会、経済等についての論文なども学者や名士の力作がのせられた。大衆小説のどっさりのる雑誌は講談社のキングその他新聞社、博文館などの娯楽雑誌で、そういう雑誌では同じ経済記事にしろ勤労大・・・ 宮本百合子 「商売は道によってかしこし」
・・・私のところに手伝って貰って居た人で名士訪問会という会へ出かけ、一日でも家にじっとして居られないという人がありましてね」 皆笑う。「ほんとうに真面目なんですよ、気違いでも何でも真面目だからいいって手伝って居て貰って居ましたが、気違いの・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
・・・をとりあげた場合、一般化していわれる民衆という言葉は、一般化して云われる真実とひとしくほんとに抽象名詞であるという感がふかい。民衆の真実は何であろうかと思わずにはいられないのが活きた今日の人情なのである。 大衆の中の進歩的要素と知識人が・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・昨晩の夕刊はこの悲しい入港とその同じ船にのって帰って来た名士たちの帰朝談とを報じていた。船の医者やその他の責任者たちはもとより、心から遺憾の意を表してはいるのだろうが、私たち一般のものの感情には何かまだそこに表現され足りないものがあると感じ・・・ 宮本百合子 「龍田丸の中毒事件」
・・・ 箇人主義と云う思想上の一名詞が考え出されない以前から、既にアメリカ人の生活は、箇人箇性を基本に置いたものであった。アメリカが植民地時代から、独立的気風は各人の内心に燃えていた。それは、遠い昔、政治的思想的に紛糾を重ねた欧州の故国を去っ・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
出典:青空文庫