・・・ 三年と五年の中にはめきめきと身上を仕出しまして、家は建て増します、座敷は拵えます、通庭の両方には入込でお客が一杯という勢、とうとう蔵の二戸前も拵えて、初はほんのもう屋台店で渋茶を汲出しておりましたのが俄分限。 七年目に一度顔を見せ・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・ その日から、草は太陽の光を受けて、めきめきと成長いたしました。一月ばかりの間に、どんなに草は大きくなったでしょう。そして、枝ものびて、つぼみもつけて、いまにも花を咲こうとしたのであります。 そのとき、太陽は、ふたたび屋根のあちらに・・・ 小川未明 「小さな草と太陽」
・・・その三郎がめきめきと延びて来た時は、いつのまにか妹を追い越してしまったばかりでなく、兄の太郎よりも高くなった。三郎はうれしさのあまり、手を振って茶の間の柱のそばを歩き回ったくらいだ。そういう私が同じ場所に行って立って見ると、ほとんど太郎と同・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・太郎や次郎はもとより、三郎までもめきめきとおとなびて来て、縞の荒い飛白の筒袖なぞは着せて置かれなくなったくらいであるから。 目に見えて四人の子供には金もかかるようになった。「お前たちはもらうことばかり知っていて、くれることを知ってる・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・女の子、愛されているという確信を得たその夜から、めきめき器量をあげてしまった。三年まえの春から夏まで、百日も経たぬうちに、女の、髪のかたちからして立派になり、思いなしか鼻さえ少したかくなった。額も顎も両の手も、ほんのり色白くなったようで、お・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・肉体が、自分の気持と関係なく、ひとりでに成長して行くのが、たまらなく、困惑する。めきめきと、おとなになってしまう自分を、どうすることもできなく、悲しい。なりゆきにまかせて、じっとして、自分の大人になって行くのを見ているより仕方がないのだろう・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・私は、死ななかった。私は神のよほどの寵児にちがいない。望んだ死は与えられず、そのかわり現世の厳粛な苦しみを与えられた。私は、めきめき太った。愛嬌もそっけもない、ただずんぐり大きい醜貌の三十男にすぎなくなった。この男を神は、世の嘲笑と指弾と軽・・・ 太宰治 「答案落第」
・・・下宿の一室に、死ぬる気魄も失って寝ころんでいる間に、私のからだが不思議にめきめき頑健になって来たという事実をも、大いに重要な一因として挙げなければならぬ。なお又、年齢、戦争、歴史観の動揺、怠惰への嫌悪、文学への謙虚、神は在る、などといろいろ・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・驚くべきことは、このごろ、めきめき彼女の舌は長くなり、Lの発音も西洋人のそれとほとんど変らなくなったという現象である。これは、私も又聞で直接に、その勇敢な女生徒にお目にかかったことは無いのだから、いま諸君に報告するに当って、多少のはにかみを・・・ 太宰治 「女人訓戒」
・・・それから笹田がおちぶれて、更木の斎藤では病気もすっかり直ったし、むすこも大学を終わったし、めきめき立派になったから」 こんなのがざしき童子です。 宮沢賢治 「ざしき童子のはなし」
出典:青空文庫