・・・元来子孫の維持と優生という男女協同の任務の遂行が、女子に特別な負荷を要求する以上、男子が女子を保護しなければならないのは当然のことである。しかるに今日においては国法は男子の利益においてきめられ社会は母性と、産児と、未亡人とを保護しない。妊娠・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・骨董商はちょっと取片付けて澄ましているものだが、それだって何も慈善事業で店を開いている訳ではない、その道に年期を入れて資本を入れて、それで妻子を過しているのだから、三十円のものは口銭や経費に二十円遣って五十円で買うつもりでいれば何の間違はな・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・ 九歳のとき彼のお千代さんという方が女子師範学校の教師になられたそうで、手習いは御教えにならぬことになりました。で、私を何所へ遣ったものでしょうと家でもって先生に伺うと、御茶の水の師範学校付属小学校に入るが宜かろうというので、それへ入学・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・久しぶりにて女子らしき女子をみる。一体土地の風俗温和にていやしからず。中学は東京の大学に似たれど、警察署は耶蘇天主堂に似たり。ともかくも青森よりは遥によろしく、戸数も多かるべし。肴町十三日町賑い盛なり、八幡の祭礼とかにて殊更なれば、見物した・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・来世の迷信から、その妻子・眷属にわかれて、ひとり死出の山、三途の川をさすらい行く心ぼそさをおそれるのもある。現世の歓楽・功名・権勢、さては財産をうちすてねばならぬのこり惜しさの妄執にあるのもある。その計画し、もしくは着手した事業を完成せず、・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・事情である、其二三を挙ぐれば、天寿を全うして死ぬのでなく、即ち自然に老衰して死ぬのでなくして、病疾其他の原因から夭折し、当然享くべく味うべき生を、享け得ず味わい得ざるを恐るるのである、来世の迷信から其妻子・眷属に別れて独り死出の山、三途の川・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・機会さえあらば、何処かの温泉地でなりと旦那を見、お新にも逢わせ、どうかして旦那の心をもう一度以前の妻子の方へ引きかへさせたい。その下心でおげんは東京の地を踏んだが、あの伜の家の二階で二人の弟の顔を見比べ、伜夫婦の顔を見比べた時は、おげんは空・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・家庭の幸福か。妻子のあるのは、お前ばかりじゃありませんよ。 図々しいねえ。此頃めっきり色が白くなったじゃないか。万葉を読んでいるんだってね。読者を、あんまり、だまさないで下さい。図に乗って、あんまり人をなめていると、みんなばらしてやりま・・・ 太宰治 「或る忠告」
・・・こうなると、どうも、男よりも女子のほうが、しっかりしている。それでは、どうか、よろしくたのむよ。」「はあ、承知しました。」たのもしげに、首肯きます。 私は、ほっとして、それでは帰ろうかと腰を浮かしかけた途端に、馬小屋のほうで、「・・・ 太宰治 「嘘」
・・・という言葉が閉口で、すぐに眼鏡をかけた女子大学生の姿や、されこうべなどが眼に浮び、やり切れないのです。私があなたのお手紙を読んで、あなたのお考えになっている事が、あなたの言葉と少しの間隙も無くぴったりくっついて立っているのを見事に感じ、これ・・・ 太宰治 「風の便り」
出典:青空文庫