・・・――まア、ざっとこないな話――君の耳も僕の長話の砲声で労れたろから、もう少し飲んで休むことにしよ。まア、飲み給え。」「酌ぎましたよ」と、すすめる細君の酌を受けながら、僕は大分酔った様子らしかった。「君と久し振りで会って、愉快に飲んだ・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・「いいや、もう少し待って見て、いよいよ利きが見えなかったら灌腸しよう」と下腹をさすりながら、「どうだったい、お仙ちゃんの話は?」「まあ九分までは出来たようなものさ、何しろ阿母さんが大弾みでね」「お母の大弾みはそのはずだが、当人の・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・そしてもう少し行くと、中座、浪花座と東より順に五座の、当時はゆっくりと仰ぎ見てたのしんだほど看板が見られたわけだったが、浜子は角座の隣りの果物屋の角をきゅうに千日前の方へ折れて、眼鏡屋の鏡の前で、浴衣の襟を直しました。浜子は蛇ノ目傘の模様の・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・「母さんはいつ来るの?」「もう少しするとじき。今度はね、たアちゃんも赤んぼも皆な来るの。そして皆なでいっしょにここにいるの。……早く来るといいねえ」「あア……」 こうした不健康な土地に妻子供を呼び集めねばならぬことかと、多少・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・自分はそんなときよく顔の赧くなる自分の癖を思い出した。もう少し赧くなっているんじゃないか。思う尻から自分は顔が熱くなって来たのを感じた。 係りは自分の名前をなかなか呼ばなかった。少し愚図過ぎた。小切手を渡した係りの前へ二度ばかりも示威運・・・ 梶井基次郎 「泥濘」
・・・道順を踏まなければ、ただあっちこっちでこづき廻されて無駄に苦しい思をするばかり、そのうちにあ碌で無い智慧の方が付きがちのものだから、まあまあ無暗に広い世間へ出たって好いことは無い、源さんも辛いだろうがもう少し辛棒していてくれれば、そのうちに・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・「ま、もう少しの我慢ですよ。」 検事が鞄をかゝえこんで、立ち上るとき云った。俺は聞いていなかった。 豆の話 俺はとう/\起訴されてしまった。Y署の二十九日が終ると、裁判所へ呼び出されて、予審判事から検事の起訴・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・私も東京に自分の家でも見つけましたら、そりゃ姉さんに来て頂いてもようござんす。もう少し気分を落着けるようにして下さい」「落着けるにも、落着けないにも、俺は別に何処も悪くないで」とおげんの方では答えた。「唯、何かこう頭脳の中に、一とこ引ッ・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・何だかもう少し着ていたいようにも思われた。そして、しばらく羽織の赤い裏の裏返ったのを見守った。自分の家なぞでは、こんな花やかな着物を脱ぎ捨ててあることはついに見られない。姉は十一で死んだ。その後家じゅうに赤い切れなぞは切れっ端もあったことは・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・ スバーは、此他もう少し高等な生きものの中にも一人の仲間を持っていました。ただ、その仲間と云うのも、どんな風な仲間と云ってよいのか、一口で云うのは難しいことでした。何故なら、彼女のその仲間は、話が出来ました。彼に話しが出来ることが、却っ・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
出典:青空文庫