・・・仁右衛門は無表情な顔をして口をもごもごさせながら馬の眼と眼との間をおとなしく撫でていたが、いきなり体を浮かすように後ろに反らして斧を振り上げたと思うと、力まかせにその眉間に打ちこんだ。うとましい音が彼れの腹に応えて、馬は声も立てずに前膝をつ・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・ 弁公は口をもごもごしながら親父の耳に口を寄せて、「でも文公は長くないよ。」 親父は急に箸を立てて、にらみつけて、「だから、なお助けるのだ。」 弁公はまたもすなおにうなずいた。出がけに文公を揺り起こして、「オイちょっ・・・ 国木田独歩 「窮死」
・・・はなっても、自分が経験した病気に対する、あらゆる悲しさや恐ろしさが過敏になった心に渦巻きたって、もうどうしても死なねばならないときまってしまった様な厳な気持になったりして、いつとなし眠りに落ちるまで、もごもごと寝返りを打ちつづけて居た。・・・ 宮本百合子 「黒馬車」
出典:青空文庫