・・・家の人から宝丹をもらってやけに口一っぱいぬりつけてしまう。口もあつみがふえた様にボテボテして感じがにぶくなってしまった。痛みは少しいい。泣きつらに蜂はこの事だと思われた。笑う人の気がしれないって一人でプリプリして居る。笑いたいと思ったって、・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・自ぼれの強い女がこれならと自信をもって居た歌が一も二もなくとりすてられたのをふくれてわきを向いて額がみをやけにゆらがす女もあるし意外のまぐれあたりに相合をくずすものもあるなどいずれもつみのない御笑嬌で有る。この人達の中で月と日とのようなかが・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・ ライオン喫茶部では大理石切嵌模様の壁がやけにぶつかる大太鼓やヴァイオリンの金切声をゆがめ皺くちゃにして酸素欠乏の大群集の頭上へばらまきつつあった。昨夜ここでマカロニを食べた二人連の春婦が同じ赤い着物と同じ連れで今夜はじゃがいもの揚げた・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫