・・・「尿毒性であると、よほどこれは危険で……お上さん、私は気安めを言うのはかえって不深切と思うから、本当のことを言って上げるが、もし尿毒性に違いないとすると、まずむずかしいものと思わねばなりませんぞ!」「…………」「とにかく、ほかの・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・こないだからもな、風邪ひいとるんやけど、しんどうてな、おかあはんは休めというけど、うちは休まんのや」「薬は飲んでるのか」「うちでくれたけど、一服五銭でな、……あんなものなんぼ飲んでもきかせん」 喬はそんな話を聞きながら、頭ではS・・・ 梶井基次郎 「ある心の風景」
・・・ 円座を打ち敷きて、辰弥は病後の早くも疲れたる身を休めぬ。差し向いたる梅屋の一棟は、山を後に水を前に、心を籠めたる建てようのいと優なり。ゆくりなく目を注ぎたるかの二階の一間に、辰弥はまたあるものを認めぬ。明け放したる障子に凭りて、こなた・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・言いがたき暗愁は暫時も自分を安めない。 時は夏の最中自分はただ画板を提げたというばかり、何を書いて見る気にもならん、独りぶらぶらと野末に出た。かつて志村と共に能く写生に出た野末に。 闇にも歓びあり、光にも悲あり、麦藁帽の廂を傾けて、・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・り、人唄えばとて自ら歌えばとてついに安き眠りを結び得ざるは貴嬢のごとき二郎のごときまたわれのごとき年ごろの者なるべし、ただ二郎この度は万里の波上、限りなき自然の調べに触れて、誠なき人の歌に傷つきし心を安めばやと思い立ちぬ。げに真情浅き少女の・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・この冬に肺を病んでから薬一滴飲むことすらできず、土方にせよ、立ちん坊にせよ、それを休めばすぐ食うことができないのであった。「もうだめだ」と、十日ぐらい前から文公は思っていた。それでもかせげるだけはかせがなければならぬ。それできょうも朝五・・・ 国木田独歩 「窮死」
・・・とお源は水を汲む手を一寸と休めて振り向いた。「井戸辺に出ていたのを、女中が屋後に干物に往ったぽっちりの間に盗られたのだとサ。矢張木戸が少しばかし開いていたのだとサ」「まア、真実に油断がならないね。大丈夫私は気を附けるが、お徳さんも盗・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・間の宿とまでもいい難きところなれど、幸にして高からねど楼あり涼風を領すべく、美からねど酒あり微酔を買うべきに、まして膳の上には荒川の鮎を得たれば、小酌に疲れを休めて快く眠る。夜半の頃おい神鳴り雨過ぎて枕に通う風も涼しきに、家居続ける東京なら・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・らば銭あらばと思いつつようよう進むに、足の疲れはいよいよ甚しく、時には犬に取り巻かれ人に誰何せられて、辛くも払暁郡山に達しけるが、二本松郡山の間にては幾度か憩いけるに、初めは路の傍の草あるところに腰を休めなどせしも、次には路央に蝙蝠傘を投じ・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・私は同伴する人たちのことを思い、ようやく回復したばかりのような自分の健康のことも気づかわれて、途中下諏訪の宿屋あたりで疲れを休めて行こうと考えた。やがて、四月の十三日という日が来た。いざ旅となれば、私も遠い外国を遍歴して来たことのある気軽な・・・ 島崎藤村 「嵐」
出典:青空文庫