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・・・森の奥から火を消すばかり冷たい風で、大蛇がさっと追ったようで、遁げた私は、野兎の飛んで落ちるように見えたということでございまして。 とこの趣を――お艶様、その御婦人に申しますと、――そうしたお方を、どうして、女神様とも、お姫様とも言わな・・・
泉鏡花
「眉かくしの霊」
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・・・山中に住む野兎ならば、あるいは猟夫の油断ならざる所以のものを知っていて、之を敬遠するのも亦当然と考えられるのであるが、まさか博士は、わざわざ山中深くわけいり、野生の兎を汗だくで捕獲し、以て実験に供したわけでは無いと思う。病院にて飼養されて在・・・
太宰治
「女人訓戒」