・・・孝子夫人はそのとき、布団の上に坐って、燦とした緑色の外景に目をやりながら、もう数年の間病床についている妻として、御良人の生活に対する微妙な思いやりを語られた。病む妻としての苦痛や良人への同情、苦慮が溢れていて、相談のかたちで語られたそれらの・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・ あなたが、自分は解放運動のために働くしか生きるに道がないと信じ、良人の考えは変らず、離婚するしかないと分れば嫁入り前の妹のことを気に病むなどということもないでしょう。 夫婦は、つまり同志でなければ、われわれの場合うまく、力を揃えて・・・ 宮本百合子 「「我らの誌上相談」」
・・・時代は啻に一つの大議論家を出したのみではなくて、ほとんど無数の大議論家を出して止む時がない。即ち新文学士の諸先生がそれである。試みに帝大文学の初の数十冊を始として、同時に出た博文館の太陽以下の諸雑誌、東京の諸新聞を見たならば、鴎外と云う名に・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
出典:青空文庫