・・・お爺さんが止めるのも聞かずに、馳出して行きました。この子供が木の実を拾いに行きますと、高い枝の上に居た一羽の橿鳥が大きな声を出しまして、「早過ぎた。早過ぎた。」と鳴きました。 気の短い弟は、枝に生って居るのを打ち落すつもりで、石ころ・・・ 島崎藤村 「二人の兄弟」
・・・と小母さんが止めると、「だってお母さん。写真を薬でよくするんじゃありませんか」と泣きそうな顔をする。「それよりか写真屋さん。一昨日かしら写したあたしの写真はいつできるんですか」と藤さんが問う。小母さんも、「私ももう五六度写ったはずだ・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・大尉になり次第罷めるはずである。それを一段落として、身分相応に結婚して、ボヘミアにある広い田畑を受け取ることになっている。結婚の相手の令嬢も、疾っくに内定してある。令嬢フィニイはキルヒネツグ領のキルヒネツゲル伯爵夫人になるのが本望である。こ・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・が、完全な統制のもとに、それぞれ適当なる部署について、そうしてあらかじめ考究され練習された方式に従って消火に従事することができれば、たとえ水道は止まってしまっても破壊消防の方法によって確実に延焼を防ぎ止めることができるであろうと思われる。・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・人が、完全な統制の下に、それぞれ適当なる部署について、そうしてあらかじめ考究され練習された方式に従って消火に従事することが出来れば、たとえ水道は止まってしまっても破壊消防の方法によって確実に延焼を防ぎ止めることが出来るであろうと思われる。・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・彼自身にも、それが病的であるという事を自覚しないではなかったが、その自覚はこのような発作を止めるにはなんの役にも立たなかった。そんな時に適当な書物を読めばいいことも知っていたが、発作のはげしい時には書物をあけて読もうと思って努力しても、心は・・・ 寺田寅彦 「球根」
・・・勝手な音を無茶苦茶に衝突させ合ったのではいたずらに耳を痛めるだけであろう。 バイオリンの音を出すのでも、弓と弦との摩擦という、言わば一つの争闘過程によって弦の振動が誘発されるとも考えられる。しかしそれは結局は弦の美しい音を出すための争闘・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・しかし病めるこの家の主婦は前夜に死んだのである。いまわと云う時に、死んだ娘の名を呼んだとも云う。 養子に離れ、娘にも妻にも取り残されて、今は形影相弔するばかりの主人は、他所目には一向悲しそうにも見えず、相変らず店の塵をはたいている。台所・・・ 寺田寅彦 「やもり物語」
・・・しかしボオトは少くとも四、五人の人数を要する上に、一度櫂を揃えて漕出せば、疲れたからとて一人勝手に止める訳には行かないので、横着で我儘な連中は、ずっと気楽で旧式な荷足舟の方を選んだ。その時分にはボオトの事をバッテラという人も多かった。浅草橋・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・上野の人が頻りに止める。正岡さんは肺病だそうだから伝染するといけないおよしなさいと頻りにいう。僕も多少気味が悪かった。けれども断わらんでもいいと、かまわずに置く。僕は二階に居る、大将は下に居る。其うち松山中の俳句を遣る門下生が集まって来る。・・・ 夏目漱石 「正岡子規」
出典:青空文庫