・・・其の風俗も今日では内地人のような髪を結い着物を着ているので一寸見分けがつきませんが、古風な着物を着て、馬に乗りながら大きな林や広い野の一筋道を悠々と行く姿は、全く別の世界を見るようでございます。アイヌ人でも美しい人は矢張り色が白く、濃い眉に・・・ 宮本百合子 「親しく見聞したアイヌの生活」
・・・ のけものにされた様にして居た篤は千世子に髪の結い方をきいた。「何んになさるんです? 私の髪なんか。」「何て事はないんですけど、 あんまり見ない形だから。」「そいじゃあそのまんまにして置いた方がようござんすねえ。」・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・ それから髪を結い、日当ぼっこをし乍ら、読んだり、小さいものを書く。三四時頃Aが帰宅し、夕飯六時。一時間も、肴町、白山の方を散歩し、少し勉強し、風呂に入り眠る。 プルタークの英雄伝を読み、シーザー、アントニオ、カトウ時代のギリシア、・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・ 私は生きながら花にとらわれて居た羽虫ときっと一匹ずつの羽虫の御宿をして居た花とは前の世からキッシリと何かの糸で結いつけられて居たんじゃあないかと思われた。 埋立地にて 私は、私の見たがらないいろんなきたないまわ・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・それからのう貴方様、まだ和子とお呼び申して居った頃の事での、 お城内の腕白共がフト迷い込んで出る道を忘れたあほう鳩を捕えて足に石を結いつけては追ってよう飛ばぬ不様な形を見て笑って居るのをお見なされてその者達の所にお出なされて、 もう・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・母の考えているところは感じられて、それに反撥しながら、今度こそ独りになって、自分のまわりに執念ぶかく結わかれている柵を二度と結い直しのきかない程にふっ飛ばそう。こんどこそ生きたいように生きるのだと、勇躍して、じかに生活へとび込む希望と好奇心・・・ 宮本百合子 「母」
・・・夜になったら座に行って会おうこんな事をたのしみにして夕飯をしまうとすぐ髪を結いなおして縮緬しぼりの長い袖の着物に白い博多を千鳥にむすんで祖母をひっぱって出かけた。 私は幕のあくたんびに御妙ちゃんの出るのがまち遠しくてまち遠しくて自分の目・・・ 宮本百合子 「ひな勇はん」
・・・おしろいの塗り方も髪の結いぶりも着物の着こなしもすべて隙がない。delicate な印象を与え清い美しさで人を魅しようとする注意も行きわたっている。しかもそこにすべてを裏切るある物の閃きがある。人は密室で本性を現わす無恥な女豚を感じないでは・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫