・・・ 昨夜の夕刊には、大蔵省の初の月給振替払いの日のことがのっていた。月給百五十円以上の人々は、現金としては半額しか入っていない月給袋をうけとった。すぐ振替えをとることが出来るのだそうだけれど、私たちは閃くような思いで、うちはどうするのだろ・・・ 宮本百合子 「家庭と学生」
・・・窓の前は、モスク夕刊新聞の屋上で、クラブになっていた。着いた年の冬は、硝子張りの屋根が破れたまま鉄骨がむき出しになっていた。雪がそこから降る。春の北国の重い雪解水がそこから滴っている。荒々しい淋しい心のひきむしられる眺めであった。二年後に、・・・ 宮本百合子 「カメラの焦点」
・・・ 三人が抓みっこをしていたテーブルに、夕刊が一枚あった。私がどけようとすると、「あ一寸」とYがとめた。「その本を買うんですよ」 石川啄木の歌が広告に利用してあった。「働けど働けど我生活は楽にはならざり凝っと手を見る」・・・ 宮本百合子 「九月の或る日」
・・・ 五九種 一、四二六千七五〇農民 一〇五種 一、五三四千五〇〇青年少年 四七種 四〇七千二五〇民族語の新聞 二〇八種 一、〇〇四千七五〇夕刊 六種 三二・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・色彩は、はでであるが、何か通行人の影は黒い、今夜はクリスマス・イーヴなのだけれども、学生の街である神田でさえ、そのような楽しげな雰囲気はなく、うちへかえって夕刊を見て、ああ本当にと思ったほどです。中井から家へ来るまでの、ほんの一二丁の町並も・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・結婚によって自分の職業もやめ、一躍有閑夫人めいた生活に入りたいという希望をもっている人が、今日のような浮動した社会事情の時はその夢を実現する可能が意外のところにあるのかもしれない。そういう人生の態度を認めている人たちは、周囲からの軽蔑を自分・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・都会の安逸な有閑者の生活に生じてくる恋愛中心の波瀾、それをめぐっての有閑者流な人情の葛藤の面白さにすぎない。勤労大衆の文学は、その内容も表現も勤労者の生活に即したものでなければならないという理解に立っていたのであった。 純文学はこの時代・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・ つい三四日前のことであったが、夕飯のすんだ餉台のところで、家のものと夕刊を見ていた。丁度『日の出』という大衆雑誌の広告が出ていて、そこに一つの字が目をひいた。本多式貯蓄法、林学博士本多静六。広告にそうかかれている。よほど以前にもこの博・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
・・・きょうの宮さまとよばれる有閑な中年の男性たちが、あたりまえの一市民のようであって決してそうでないさかさ成金のスリルを愉しむのは、むしろあたりまえであろう。人間の笑いの中には一般人にとってあたり前のことが、どのようにあたりまえでなく行われるか・・・ 宮本百合子 「ジャーナリズムの航路」
・・・女のあわれな物語を、現代の闇商売で有閑的な生活に入った人々が唸っているのは、腹立たしく滑稽な絵図である。 徳川家康が戦国時代に終止符をうって江戸の永くものうい三百年がはじまった。この時代の婦人の立場は「女大学」というもの一つを取上げただ・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
出典:青空文庫