・・・ 夕刻事務所から早く帰った日には、皆でテーブルを囲んで夕飯をたべ、後は談笑したり、音楽をきいたり、興に乗じると、昔ロンドンでアーヴィングが演ったハムレットの真似だと云って、芝居の真似をしたり、賑やかでした。喋っても、癇癪を起しても陽性で・・・ 宮本百合子 「父の手帳」
・・・ 私共は用事があって夕刻から夜にかけて外出した。私は帰るなり訊いた。「どうして、鳥は」 留守居の若い娘は、弁解するように答えた。「いつまでも硝子戸をあけて置きましたが帰って参りませんから閉めてしまいましたけれど……」「い・・・ 宮本百合子 「春」
・・・けれども、夕刻に近く帰って来たAに其、突然起った今日の出来ごとを告げる時、口吻には、自ら、迷惑げな響が加えられた。 Aがそれを、何方かと云えば、だらしないこと、不快の分子の多いこととして感じるのを、心が、我知らず先廻りをして仕舞ったので・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・そして、イゾートの死体の発見された夕刻、群集の中で一人の商人を殴ったククーシュキンを、穴蔵へ入れるように命じた。それぎりであった。村は、自身の犯罪を深く呑みこんだ。 ひと月たたない或る朝、店の倉庫代用につかわれていた納屋から火が出た。そ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・けれども、忠告を与えている人々は、例えばテニス・コートなどが、工場の若い人たちのために夕刻から夜へ開放されていないという事実を、どんなに考えているのであろうか。 してはいけない、という面のことは細々と示されていると思う。それは示しやすい・・・ 宮本百合子 「若きいのちを」
出典:青空文庫