・・・ただもし非常な空想をたくましくすることを許されるとすれば、自分はここにも何か遺伝学的、優生学的、生理学的な説明が試み得られそうな気がする。ただ気がするだけでまだ具体的な材料を収集することができない。 それはとにかく、年を取るに従っていろ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・たとえ遊星運動の説明に関する従来の困難がかなりまで除却され、日蝕観測の結果がかなりまで彼の説に有利であっても、それはこの理論の確実性を増しこそすれ、厳密な意味でその絶対唯一性を決定するに充分なものであるとはにわかには信じられない。スペクトル・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・少なくも、そういうふうにその時の先生の話を了解したので、急に優勢な援兵を得たように勇気を増して、夏休みに帰省した時にとうとう父を説き伏せ、そうして三年生になると同時に理科に鞍がえをしたのである。それがために後日できそこないの汽船をこしらえて・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・見るとそれは黄道に近いところにあるし、チラチラ瞬きをしないからいずれ遊星にはちがいないと思った。そして近刊の天文の雑誌を調べてみるとそれが火星だという事がすぐに判った。星座図を出して来てあたってみるとそれは処女宮の一等星スピカの少し東に居る・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・一塊の遊星は宇宙の微分子であると同様に人間はその遊星の一個の上の微分子である。これは大きさだけの事であるが知識の dimensions はこれにとどまらぬ。空間に対して無限であると同時に時間に対しても無限である。時と空間で織り出した Min・・・ 寺田寅彦 「知と疑い」
・・・しかし太陽が地球の周囲を動いているとすると外の遊星の運動を非常に複雑なものと考えなければならず、また重力の方則なども恐ろしく難儀なものになるに相違ない。科学の場合には方則の普遍性とか思考の節約とかいう事が標準となって科学者の自然に対する見方・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・次には月、太陽、諸遊星を始めあらゆる天体の引力も加わる。これらは質量が大なる代りに距離が遠いので影響はやはり小さいものである。例えば比較的最も著しい月の影響でも目方の変りは百万分の一を超えることはない。恒星はその数においては甚だ多いが、その・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・と云う訳で、少しでも労力を節減し得て優勢なるものが地平線上に現われてここに一つの波瀾を誘うと、ちょうど一種の低気圧と同じ現象が開化の中に起って、各部の比例がとれ平均が回復されるまでは動揺してやめられないのが人間の本来であります。積極的活力の・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・また読書界が推移性に支配されつつあって、何か新発展を希望する場合には圏外に優勢なものがあらわれ勝になる。もし読書界が両分されて半々になるときは圏内圏外共に相応の競争があって、相応の読者を有する訳になります。私は実際の作物にあたって、とかくの・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・天下の先覚、憂世の士君子と称し、しかもその身に抜群の芸能を得たる男子が、その生活はいかんと問われて、孤児・寡婦のはかりごとを学ぶとは、驚き入ったる次第にして、文明活溌の眼をもって評すれば、ただ憐むべきのみ。 試みに西洋諸国の工商社会を見・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
出典:青空文庫