・・・乱世に於けるかかる形式は、自然と人民をして自ら治むることの有利にして且喫緊なことを悟らしめた。当時の外国貿易に従事する者は、もとより市中の富有者でもあり、智識も手腕も有り、従って勢力も有り、又多少の武力――と云ってはおかしいが、子分子方、下・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・それらの主義が発明された当初の真実を失い、まるで、この世界の新現実と遊離して空転しているようにしか思われないのである。 新現実。 まったく新しい現実。ああ、これをもっともっと高く強く言いたい! そこから逃げ出してはだめである。ご・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・誰だって同じ旅行が出来たら、あの男よりは有利にそれをし遂げるだろうに。 チルナウエルの旅程が遠くなればなる程、跡に残っている連中の悪口はひどくなる。もう幾月か立ったので、なんに附けても悪く言う。葉書が来ない。そりゃ高慢になった。来た。そ・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・その時代の環境のいかなる要素が彼らの生存に有利であったかがおもしろい問題である。 今から何万年の後に地球上の物理的条件が一変して再び犀かあるいは犀の後裔かが幅をきかすようになったとしたら、その時代の人間――もし人間がいるとしたら――の目・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ これに比べて現代を取り扱った邦画はいくらか有利な地位にある。前記第一の点の不自然さから免れやすく、第四のセットに関してもおのずから無理のないものになりやすい傾向がある。従って見ていてたまらなく不快な破綻を感じる程度が剣劇に比して少ない・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・鋒先の後方へ向いた角では、ちょっと見るとぐあいが悪そうであるが、敵が自分の首筋をねらって来る場合にはかえってこのほうが有利であるかもしれない。 鰐と虎とのけんかも変わっている。両方でかみ合ったままで、ぐるりぐるりと腹を返して体軸のまわり・・・ 寺田寅彦 「映画「マルガ」に現われた動物の闘争」
・・・もっとも旋風は多くの場合に雷雨現象と連関して起こるから、その点で後に述べる時間分布の関係から言って多少この説に有利な点はある。しかしいわゆる光の現象やまた前述のまじないの意味は全くこれでは説明されない。 これに反して、ギバがなんらかの空・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・が進歩すれば、政治でも経済でも人間に有利になるのが当然の帰結であると思われ、また一方芸術的に美しいものであるためには、その中に何かしら、ここでいわゆる「学」への貢献を含むということが必須条件であると思われるのである。一見いかに現在の道徳観を・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 営利会社の内部に設けられた研究室の研究員も、大体において、その会社に有利な結果の出そうな研究をするのが普通である。尤も、大戦前のドイツのある化学工業会社などでは、常に数十人の学者を養って、それに全く気儘な研究をさせたという話である。五・・・ 寺田寅彦 「学問の自由」
・・・ もし空想をたくましゅうすることを許されれば、最初は宗教的儀式としてやっていた事が偶然鐘の音に対してある有利な効果のある事を発見し、次いでそれが鋳物の裂罅から来る音響学的欠点を修正するためだということに考え及び、そうして今度は意識的にそ・・・ 寺田寅彦 「鐘に釁る」
出典:青空文庫