・・・こういう階級性は決して作品の具体的な世界から遊離した観念としてのべられているのではなく、作品の血肉として消化され、芸術として形づくられています。主人公は、まだ階級的に目ざめつつある過程が描かれているのですから、まだ共産主義者として行動してい・・・ 宮本百合子 「文学について」
・・・時代にでも、現実の激しい社会生活から遊離した川端康成の主観玩弄の癖は一つの特徴だった。有閑なブルジョア・インテリゲンチアらしく脳みそは一秒間にどれだけ沢山のものを連想し得るかを暇にまかせて追求し主観の転廻のうちに実現と美を構成しようとしたの・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・の感覚などのうちに退嬰し、徳川末期に到っては身分制に属しながら実力はそれを凌駕している町人階級の文学としてそこでだけは武士の力がものをいわぬ遊里、花柳界遊蕩の文学が発生したのであった。この種の文学の世界では近松の作品にあっては人間性の悲劇の・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・けれども、藤原氏以後、上層の支配者の文化は、すっかり一般人民の内面生活から遊離して、文学的な集というようなものには、庶民の婦人の生活の苦しさやひそかな歓喜の思いを反映する歌も物語も残していない。そのことは、支配者の文化がどんなに崩れやすい社・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・それにしても、この少年が祖国の危急を救う唯一の人物だとは、――実際、今さし迫っている戦局を有利に導くものがありとすれば、栖方の武器以外にありそうに思えないときだった。しかし、それにしても、この栖方が――幾度も感じた疑問がまた一寸梶に起ったが・・・ 横光利一 「微笑」
・・・国家は、人生目的の実現に対して有利であるという事をほかにして、もはや存在の理由をもたないのである。 かくて人間の生活は、永い間の抽象化を脱して、久しぶりに具体的になる。 人類の運命はやっと常軌に返る。 その先駆としての露国革命は・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫