・・・経済的にゆとりのないことと、時間がないことが農村の女の向上を阻んでいるのだが、漁家の女が何とはなしその日暮しの生活の習慣に押しながされている傾きのつよいのは、漁家の生計の基礎が安定していなくて、一日一日が漁不漁に支配され、或るときは大漁と思・・・ 宮本百合子 「漁村の婦人の生活」
・・・直接生計の不安のない夫人たち、家事はほかのひとにまかせることのできるだけゆとりある社会的環境の女の人々がある意味で進出して来ています。これは、今日の文学そのものの問題も一面にふくんではいるが、そういう条件をもった婦人たちの文学の仕事ぶりと、・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・成人したとき、人々はゆとりのあるこころもちで、自分たちの少年時代、青年時代を回想し、その自然発生する人間性がさまざまに現わされた経過を、微笑して顧み、語る。社会連帯のつよさでかえって個性が護られ、家庭や母性が確立し、勤労による財産の蓄積さえ・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・丁度お産をする母が肉体的に出産を予感するようなもので、私の内部的カラクリは丁度もう作品をかくとき、或ゆとりと或客観力と経験の蓄積をもって来ている。この感じは、何と説明しましょう。実に何か内部的な一つの世界の前に扉があきかかっているのを見てい・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・民主的評論家は沈黙し、ジャーナリズムが釣り出した新人でない若い作家のための場面のゆとりは奪われた。次の戦争に利用することのできる八千五百万の人口と計算されているその日本の人民の数のうちに在りながら、野暮な詮議はどこかのひと隅へおしこんで、望・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
書きつづけている「道標」を今年の半ばまでに書き上げ、更にその先にすすみたいと思います。健康を守って、ゆとりをもって、たっぷり仕事をためたいと思います。〔一九四八年一月〕・・・ 宮本百合子 「今年の計画」
・・・これまで多くの母は、家のやりくり、良人の世話、非計画的に生れる子供らの世話で忙殺され、子供らの文化の与え手となるまでのゆとりはなかった。母たち自身が、ああ、どの位その望みをみたされぬ自分のお伽噺をもって、いたずらに老いて行ったことであろう。・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・子供の想像力が湧き動くだけのゆとりは、子供の本の頁になくてはならないものだと思う。隅から隅まで語りつくされているこせこせした頁を明けくれ眺めて、子供の心は受動性ばかりつよめられてゆくだろう。小学校一年生の算数の本にもこの紙面にスペースの足り・・・ 宮本百合子 「“子供の本”について」
・・・、その叫びが精一杯であって、どうして生活のボートはひっくりかえされたのか、漕ぎての責任よりもあるいはボートそのものが、にせボートをつかまされていたのかもしれない、などという考察は、系統づけてされているゆとりがない。もがきの間に、ちらり、ちら・・・ 宮本百合子 「『この果てに君ある如く』の選後に」
・・・プロレタリア文学団体が、過去の創作方法の弱点を理論的に客観的に究明する時間的ゆとり、人的条件を刻々失いつつある一方、各プロレタリア作家の日常的自由は激しく脅かされはじめていたので、新たな社会主義的リアリズムの提案は、それが他の国々で摂取され・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫