・・・軍隊の組織は悪人をして其凶暴を逞しくせしむること、他の社会よりも容易にして正義の人物をして痴漢と同様ならしむるの害や、亦他の社会に比して更に大也、何となれば陸軍部内は××の世界なれば也。威権の世界なれば也、階級の世界なれば也。服従の世界なれ・・・ 幸徳秋水 「ドレフュー大疑獄とエミール・ゾーラ」
・・・ 用意が出来ると、この床屋さんが後に廻りながら、「バリカンで、ジョキ/\やってしまうぜ。」 と云った。 それは分っていて……しかし云われてみると、矢張りギョッとした。「頼む! 少しは長くしておいてくれよ。」「こゝン中・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・大吉の目に入りおふさぎでござりまするのとやにわに打ちこまれて俊雄は縮み上り誠恐誠惶詞なきを同伴の男が助け上げ今日観た芝居咄を座興とするに俊雄も少々の応答えが出来夜深くならぬ間と心むずつけども同伴の男が容易に立つ気色なければ大吉が三十年来これ・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・殿「なれども上から拝領するは容易ならんことだよ」七「へえ……大きなもんですな、これは幾許ぐらいのものですな」殿「それは何んだの相場によって違うが、大抵二十五両ぐらいの通用のものである」七「へえ一枚二十五両ッ……これが一枚あれ・・・ 著:三遊亭円朝 校訂:鈴木行三 「梅若七兵衞」
・・・薫は、春咲く蘭に対して、秋蘭と呼んで見てもいいもので、かれが長い冬季の霜雪に耐えても蕾を用意するだけの力をもった北のものなら、これは激しい夏の暑さを凌いで花をつける南のものだ。緑も添い、花も白く咲き出る頃は、いかにも清い秋草の感じが深い。こ・・・ 島崎藤村 「秋草」
・・・ 私たちがしきりにさがした借家も容易に見当たらなかった。好ましい住居もすくないものだった。三月の節句も近づいたころに、また私は次郎を連れて一軒別の借家を見に行って来た。そこは次郎と三郎とでくわしい見取り図まで取って来た家で、二人ともひど・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・そうすると馬は、「それでは王さまにお願いして、肉とパンとうじ虫を百樽ずつ用意しておもらいなさい。そのほかにその樽を二つずつはこぶ車が百だい、その車を引っぱる革綱も二百本いります。それから水夫を二百人集めておもらいなさい。」と言いました。・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
・・・しばらく待ってみても容易にふたたび顔を出さない。蒲団の更紗へ有明行灯の灯が朧にさして赤い花の模様がどんよりとしている。 何だか煮えきらない。藤さんが今度来たのはどうしたのだというのか。何かおもしろくない事情があるのであろうか。小母さんは・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・ そのうちに午後になりましたから、このかわいい奥さんは腕に手かごをかけて、子どもの手を引いて出かける用意をしました。奥さんはまだ一度もその村に行った事はありませんが、島の向こう側で日の落ちる方にあるという事は知っていました。またそこに行・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎 「真夏の夢」
・・・ 私共が言葉で自分達の考えを表す時、仲だちとなるものは容易に見つかりません。大抵の場合不確な考えの翻訳と云う順序を踏まなければならず、為に、私共は、よく間違って仕舞います。 けれども、スバーの黒い眼には、何の翻訳もいりませんでした。・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
出典:青空文庫