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・・・と、ほとんど心配そうな顔色で徐に口を切ったのが、申すまでもなく本文の妖婆の話だったのです。私は今でもその若主人が、上布の肩から一なすり墨をぼかしたような夏羽織で、西瓜の皿を前にしながら、まるで他聞でも憚るように、小声でひそひそ話し出した容子・・・
芥川竜之介
「妖婆」
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・・・何の事だか、まるでナンセンスのようでございますが、しかし、感覚的にぞっとするほどイヤな、まるで地獄の妖婆の呪文みたいな、まことに異様な気持のする言葉で、あんな脳の悪い女でも、こんな不愉快きわまる戦慄の言葉を案出し投げつけて寄こす事が出来ると・・・
太宰治
「男女同権」