・・・禍害なるかな、偽善なる学者、汝らは預言者の墓をたて、義人の碑を飾りて言ふ、「我らもし先祖の時にありしならば、預言者の血を流すことに与せざりしものを」と。かく汝らは預言者を殺しし者の子たるを自ら証す。なんぢら己が先祖の桝目を充せ。蛇よ、蝮の裔・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・遠い恒星の光が太陽の近くを通過する際に、それが重力の場の影響のために極めてわずか曲るだろうという、誰も思いもかけなかった事実を、彼の理論の必然の結果として鉛筆のさきで割り出し、それを予言した。それが云わば敵国の英国の学者の日蝕観測の結果から・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・ モスコフスキーは四十年前の婦人と今の婦人との著しい相違を考えると、知識の普及に従って追々は婦人の天才も輩出するようになりはしないか、と云うと、「貴方は予言が御好きのようだが、しかしその期待は少し根拠が薄弱だと思う。単に素養が増し智・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・それで、前者では練習さえ積めばかなりの程度までは思いのままにあらゆる有様を再現することが出来るが、後者の方では二度と同じ結果を出すまでに何度試みを繰返さなければならないかを、確実に予言することが出来ない。 それだからヨーヨーは生真面目で・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・球を突き出したときの初速度が与えられればその後に球の動き行くべき道程は予言され、それが最後に静止する位置も少なくも原理的には立派に予報されるはずである。しかるに逆転映画の世界で最初に静止している球が与えられている場合に、どうして、まただれが・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・言葉でつづられた人間の思惟の記録でありまた予言である。言葉をなくすれば思惟がなくなると同時にあらゆる文学は消滅する。逆に、言葉で現わされたすべてのものがそれ自身に文学であるとは限らないまでも、そういうもので文学の中に資料として取り入れられ得・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・それが五年も休止状態にあったのであるから、そろそろまた一つぐらいはかなりなのが台湾じゅうのどこかに襲って来てもたいした不思議はないのであって、そのくらいの予言ならば何も学者を待たずともできたわけである。しかし今度襲われる地方がどの地方でそれ・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・飛んだ預言者に捕まって、大迷惑だ」「移るのもいいかも知れんよ」「馬鹿あ言ってら、この間越したばかりだね。そんなにたびたび引越しをしたら身代限をするばかりだ」「しかし病人は大丈夫かい」「君まで妙な事を言うぜ。少々伝通院の坊主に・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・みんな長くは持たない人ばかりだそうですと看護婦は彼らの運命を一纏めに予言した。 自分は縁側に置いたベゴニアの小さな花を見暮らした。実は菊を買うはずのところを、植木屋が十六貫だと云うので、五貫に負けろと値切っても相談にならなかったので、帰・・・ 夏目漱石 「変な音」
・・・絶望し、分別を失ったドイツの民衆は、それがなんであろうと目前に希望をあたえ、気休めをあたえるものにすがりつき、いかがわしい予言者だの、小政党だのが続々頭をもたげた。 ヒトラーのナチスも、はじめはまったくその一としてあらわれた。当時のドイ・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
出典:青空文庫