・・・ 自動車のいる所に来ると、お前たちの中熱病の予後にある一人は、足の立たない為めに下女に背負われて、――一人はよちよちと歩いて、――一番末の子は母上を苦しめ過ぎるだろうという祖父母たちの心遣いから連れて来られなかった――母上を見送りに出て・・・ 有島武郎 「小さき者へ」
・・・ 塩どころじゃない、百日紅の樹を前にした、社務所と別な住居から、よちよち、臀を横に振って、肥った色白な大円髷が、夢中で駈けて来て、一子の水垢離を留めようとして、身を楯に逸るのを、仰向けに、ドンと蹴倒いて、「汚れものが、退りおれ。――・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・……おお、よちよち、と言った工合に、この親馬鹿が、すぐにのろくなって、お飯粒の白い処を――贅沢な奴らで、内のは挽割麦を交ぜるのだがよほど腹がすかないと麦の方へは嘴をつけぬ。此奴ら、大地震の時は弱ったぞ――啄んで、嘴で、仔の口へ、押込み揉込む・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・……これを見ると、羨ましいか、桶の蔭から、むくと起きて、脚をひろげて、もう一匹よちよちと、同じような小狗は出て来ても、村の閑寂間か、棒切持った小児も居ない。 で、ここへ来た時……前途山の下から、頬被りした脊の高い草鞋ばきの親仁が、柄の長・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・省作はようやくのことよちよち腰をまげつつ歩いて井戸ばたへ出たくらいだ。下女のおはまがそっと横目に見てくすっと笑ってる。「このあまっこめ、早く飯をくわせる工夫でもしろ……」「稲刈りにもまれて、からだが痛いからって、わしおこったってしよ・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・歩くときは、ちょうど豚の歩くようによちよちと歩きました。 おじいさんは、かつて怒ったことがなく、いつもにこにこと笑って、太い煙管で煙草を喫っていました。そのうえ、おじいさんは、体がふとっていて働けないせいもあるが、怠け者でなんにもしなか・・・ 小川未明 「犬と人と花」
・・・金之助さんは、まだよちよちしたおぼつかない足許で、茶の間と台所の間を往ったり来たりして、袖子やお初の肩につかまったり、二人の裾にまといついたりして戯れた。 三月の雪が綿のように町へ来て、一晩のうちに見事に溶けてゆく頃には、袖子の家ではも・・・ 島崎藤村 「伸び支度」
・・・小さな妹も、よちよちかけて来ました。お父さんはろのそばにすわったまま、にこにこしていました。お母さんは、「どこへいって来たの? おもしろかった?」と聞きました。「ええ、ずいぶんゆかいでしたよ。」と男の子は、うれしそうにいいました。・・・ 鈴木三重吉 「岡の家」
・・・ 夕方になると、その犬は、もうひとりの犬について、よちよちと寝どころへかえっていきます。ところが或とき、犬は一ぴきだけ来て、そのやせた犬は一日すがたを見せない日がありました。出て来た方は、夕方になると、もらった肉のきれを食べないでくわえ・・・ 鈴木三重吉 「やどなし犬」
・・・もし大きなむすこが腹をたてて帰って来て、庭先でどなりでもするような事があると、おばあさんは以前のような、小さい、言う事をきく子どもにしようと思っただけで、即座にちっぽけに見る事もできましたし、孫たちがよちよち歩きで庭に出て来るのを見るにつけ・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎 「真夏の夢」
出典:青空文庫