・・・ 勿論窓の内の陽気なことも、明い電燈の光と言い、大きなモロッコ皮の椅子と言い、あるいはまた滑かに光っている寄木細工の床と言い、見るから精霊でも出て来そうな、ミスラ君の部屋などとは、まるで比べものにはならないのです。 私たちは葉巻の煙・・・ 芥川竜之介 「魔術」
・・・今はレーニンの肖像が飾ってある。寄木の床です。「集会はいつもここでやるんです」 通りぬけた先が男の子たちの寝室です。こっちも仲々キチンと片づいています。が、面倒くさそうに突っこまれた枕が毛布の下から半分はみ出ている寝台もある。子供た・・・ 宮本百合子 「従妹への手紙」
・・・酉の下刻に与力仁杉八右衛門の取調を受けて、口書を出した。 この日にりよは酒井亀之進から、三右衛門の未亡人は大沢家から願に依って暇を遣された。りよが元の主人細川家からは、敵討の祝儀を言ってよこした。 十九日には筒井から三度目の呼出が来・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・いちはほとんどこうなるのを待ち構えていたように、そこにうずくまって、懐中から書付を出して、まっ先にいる与力の前にさしつけた。まつと長太郎ともいっしょにうずくまって礼をした。 書付を前へ出された与力は、それを受け取ったものか、どうしたもの・・・ 森鴎外 「最後の一句」
出典:青空文庫