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・・・ 答 彼女は書肆ラック君の夫人となれり。 問 彼女はいまだ不幸にもラックの義眼なるを知らざるなるべし。予が子は如何? 答 国立孤児院にありと聞けり。 トック君はしばらく沈黙せる後、新たに質問を開始したり。 問 予が家は如・・・
芥川竜之介
「河童」
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一 花火 一月二十六日の祝日の午後三時頃に、私はただあてもなく日本橋から京橋の方へあの新開のバラック通りを歩いていた。朝よく晴れていた空は、いつの間にかすっかり曇って、湿りを帯びた弱い南の風が吹いていた。・・・
寺田寅彦
「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」