・・・馬鹿を一遍通って来た利口と始めからの利口とはやはり別物かもしれないのである。外国の文化にかぶれたものが、もう一遍立帰って来たときに始めて日本固有の文化の善い所が新しい眼で見直されるということもあるかもしれないのである。・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・ これなども見れば見るだけ利口になる映画であろう。 二 ロス対マクラーニンの拳闘 この試合は十五回の立合の後までどちらも一度もよろけたり倒れかかるようなことはなかった。そうして十五回の終りに判定者がロスの方に勝・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・あれほど利口なこの動物がどうして人間の無力を見抜いてあばれださないか不思議に思われて来る。人間は知恵でこの動物を気ままにしていると思ってうぬぼれている。しかしこれらの象が本気であばれだしたら大概の人間の知恵では到底どうにもならなくなるのでは・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ 交通規則や国際間の盟約が履行されている間はまだまだ安心であろうが、そういうものが頼みにならない日がいつなんどき来るかもしれない。その日が来るとこれらの機械的鳥獣の自由な活動が始まるであろう。「太平洋爆撃隊」という映画がたいへんな人・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・ 交通規則や国際間の盟約が履行されている間はまだまだ安心であろうが、そういうものが頼みにならない日がいつ何時来るかもしれない。その日が来るとこれらの機械的鳥獣の自由な活動が始まるであろう。「太平洋爆撃隊」という映画が大変な人気を呼ん・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・それが、どうした拍子であったか、とにかくN君とのある日の会話の経過で、いつか一度議会傍聴に案内してもらうという約束が出来上がってしまった、その約束がいよいよ履行される日が思ったよりも実はあまりに早く来たのであった。 実は、どうもあまり気・・・ 寺田寅彦 「議会の印象」
・・・この友人には理工科方面の友達は少なくて主に自分からそうした方面の話を聞くのであるが、その私がこの頃は自身ではあまり器械いじりはしないで主に助手の手を借りて色々の仕事をやっていることをこの友人が時々の話の折節に聞かされて知っているのである。・・・ 寺田寅彦 「夢判断」
・・・もし事情が許せば、静かなこの町で隠逸な余生を楽しむ場合、陽気でも陰気でもなく、意気でも野暮でもなく、なおまた、若くもなく老けてもいない、そしてばかでも高慢でもない代りに、そう悧巧でも愚図でもないような彼女と同棲しうるときの、寂しい幸福を想像・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・忠君忠義――忠義顔する者は夥しいが、進退伺を出して恐懼恐懼と米つきばったの真似をする者はあるが、御歌所に干渉して朝鮮人に愛想をふりまく悧口者はあるが、どこに陛下の人格を敬愛してますます徳に進ませ玉うように希う真の忠臣があるか。どこに不忠の嫌・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・兎に角僕等二三人の客の見る所、お民は相応に世間の裏表も、男の気心もわかっていて、何事にも気のつく利口な女であった。酒は好きで、酔うと客の前でもタンカを切る様子はまるで芸者のようで。一度男にだまされて、それ以来自棄半分になっているのではないか・・・ 永井荷風 「申訳」
出典:青空文庫