・・・最後のクライマックスで、封建社会での王は最も頼みにしているルスタムの哀訴さえ自身の権勢を安全にするためには冷笑して拒んだ非人間らしさを描き出している。「渋谷家の始祖」は一九一九年のはじめにニューヨークで書かれた。二十一歳になった作者が、・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・ この詞の意味よりも、下島の冷笑を帯びた語気が、いかにも聞き苦しかったので、俯向いて聞いていた伊織は勿論、一座の友達が皆不快に思った。 伊織は顔を挙げて云った。「只今のお詞は確に承った。その御返事はいずれ恩借の金子を持参した上で、改・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
・・・それにも拘らず、冷笑するがごとく世界はますます二つに分れて押しあう排中律のさ中にあって漂いゆくばかりである。梶は、廻転している扇風機の羽根を指差しぱッと明るく笑った栖方が、今もまだ人人に云いつづけているように思われる。「ほら、羽根から視・・・ 横光利一 「微笑」
・・・聴衆に冷笑されたりしようものなら、日本人が皆非国民になってしまったような心細い感じが起こるであろう。そうすれば今よりもいっそう不安な、不愉快な気持ちになるに相違ない。そういう結果を導き出すためにわざわざ警衛や宣伝に出てくる必要は果たしてある・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫